PHYSIOLOGY · 生理学 EV.4 無作為化比較試験

紙タバコから電子・加熱式への移行でVO2maxはどう変わるか?

喫煙は有酸素能力(VO2max)を低下させるが、禁煙や電子タバコ等への移行が及ぼす影響は未解明な部分が多い。本研究は、紙タバコ喫煙者が電子タバコまたは加熱式タバコへ完全に移行した際、わずか4〜12週間でVO2maxが有意に改善することを示した無作為化比較試験である。

種目 全体 出典 Scientific Reports(2025) 公開 2026年8月4日
Group of cyclists participating in an indoor cycling session, focused on training and fitness.
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この研究でわかったこと

  1. 01 紙タバコから電子タバコや加熱式タバコへ完全に移行した群は、VO2maxが大きく改善した。
  2. 02 紙タバコの喫煙本数を50%以上減らした群でも、VO2maxの有意な向上が見られた。
  3. 03 電子タバコと加熱式タバコの間で、VO2maxの改善効果に有意差はなかった。

紙タバコの喫煙習慣を持つ成人が、紙タバコを完全にやめて電子タバコ(EC)や加熱式タバコ(HTP)に切り替えた場合、4週間から12週間という短期間で有酸素能力の指標であるVO2maxが有意に向上することが分かりました。喫煙本数を減らしただけでも改善効果が見られています。

【用語解説】

  • VO2max(最大酸素摂取量): 運動中に体内に取り込める酸素の最大量。心肺持久力の指標となる。
  • 電子タバコ(EC): ニコチンを含むリキッドを加熱して蒸気を吸入するデバイス。
  • 加熱式タバコ(HTP): タバコ葉を燃焼させずに加熱し、発生する蒸気を吸入するデバイス。

1. 何を調べた研究か

紙タバコから非燃焼式のニコチン送達システム(電子タバコや加熱式タバコ)に切り替えることが、VO2maxにどのような影響を与えるかを調査した無作為化比較試験(CEASEFIRE試験の二次解析)です。

2. これまで分かっていたこと

喫煙がVO2maxを低下させること、そして禁煙が血管機能や運動パフォーマンスを改善することは知られていました。しかし、禁煙や電子タバコ・加熱式タバコへの移行が、VO2maxにどのような具体的な変化をもたらすかは十分に解明されていませんでした。

3. どう調べたのか

1日10本以上の紙タバコを吸う成人を対象に、電子タバコ(JustFog Q16)群と加熱式タバコ(IQOS 2.4)群に無作為に割り当てました。参加者の喫煙行動に応じて「完全移行(Quitters)」「本数減少(Reducers)」「喫煙継続(Failures)」の3群に分け、ベースライン、4週後、12週後にChester Step Testを用いてVO2maxを測定・比較しました。最終的に187名のデータが解析されました。

4. 電子タバコ・加熱式への移行でVO2maxは改善するのか?

はい、改善します。紙タバコから完全に移行したグループでは、ベースラインと比較してVO2maxが有意に向上しました。

グループベースライン (mL/kg/min)4週後 (mL/kg/min)12週後 (mL/kg/min)
電子タバコ完全移行38.4 ± 5.941.0 ± 6.141.4 ± 6.3
加熱式完全移行39.2 ± 6.741.4 ± 6.441.6 ± 6.5

電子タバコと加熱式タバコの間で改善幅に有意な差はありませんでした。また、紙タバコの喫煙本数を50%以上減らしたグループでも、12週後に 1.9 ± 1.8 mL/kg/min のVO2max向上が見られました。一方、紙タバコを継続したグループでは変化がありませんでした。

5. アスリートの練習や健康にどう活かせるか?

持久系競技に取り組んでいて現在紙タバコを吸っている場合、紙タバコを完全にやめることで、わずか1ヶ月程度でVO2maxの大幅な向上が見込めます。完全な禁煙が難しい場合でも、電子タバコや加熱式タバコへの完全移行、あるいは紙タバコの喫煙本数を減らすこと(ハームリダクション)が、心肺機能の回復とパフォーマンス向上に寄与する可能性があります。

6. この研究の限界

  • 対象者が一般の成人(平均BMI約24)であるため、既に高度にトレーニングされたアスリートでも同等の改善幅が得られるかは不明です。
  • VO2maxは最大下運動テスト(Chester Step Test)による推定値であり、呼気ガス分析による直接測定ではありません。
  • 観察期間が12週間と比較的短く、長期的な影響については追加の検証が必要です。

7. よくある疑問

完全に移行しなくても効果はありますか?

紙タバコの本数を50%以上減らしたグループ(Reducers)でも、12週後にVO2maxが有意に向上したことが報告されています。しかし、最大の改善を得るには紙タバコの完全な中止が効果的です。

電子タバコと加熱式タバコで効果に違いはありますか?

本研究では、両者の間でVO2maxの改善幅に有意な差は認められませんでした。どちらも「燃焼」を伴わないため、紙タバコ煙による有害物質への曝露が減ることが要因と考えられます。

8. 出典

Spicuzza, L., Pennisi, F., Caci, G., Cibella, F., Campagna, D., Adebisi, Y. A., Saitta, C., George, J., Geraci, G., & Polosa, R. (2025). Improved aerobic capacity in a randomized controlled trial of noncombustible nicotine and tobacco products. Scientific Reports. https://doi.org/10.1038/s41598-025-03904-w

CITATION Improved aerobic capacity in a randomized controlled trial of noncombustible nicotine and tobacco products.(Scientific Reports, 2025) doi:10.1038/s41598-025-03904-w ↗