高地トレーニングは、トラックの持久系アスリートのヘモグロビン濃度と最大酸素摂取量を有意に高める。28研究を統合したメタ分析の結論である。ただし効いたのは高地に滞在する方式に限られ、間欠的な低酸素曝露では有意にならなかった。低酸素量が700 km·hを超えることが条件として挙げられている。
用語について。 「低酸素量(hypoxic dose)」は標高と曝露時間の積として表される量で、この論文では km·h という単位が使われている。LHTHは高地に住んで高地で練習する方式、LHTLは高地に住んで低地で練習する方式、HiHiLoは高地滞在に高地と低地の練習を組み合わせる方式、IHEは間欠的な低酸素曝露を指す。なお抄録ではLHTHとLHTLに同じ説明文(living high-training low)が付されており、略号の説明に混乱がある。以下では略号と結果の対応をそのまま示す。
1. 何を調べた研究か
高地トレーニングがトラックの持久系アスリートの有酸素能力に与える効果をメタ分析で明らかにし、コーチと選手の実践に指針を与えること。それが著者らの目的である。
主要なアウトカムはヘモグロビン濃度と最大酸素摂取量の二つに置かれている。
2. これまで分かっていたこと
高地トレーニングは持久系種目で長く使われてきたが、方式が複数あり、どれをどれだけやれば効くのかについての整理が求められていた。
この論文がサブグループ解析で方式と低酸素量を切り分けているのは、その要請に応えるためである。「高地トレーニングは効くか」ではなく「どの方式が、どれだけの量で効くか」を問いにしている。
3. どう調べたのか
PubMed、Web of Science、CNKI、万方データ知識プラットフォームを対象に、各データベースの開設以降に公表された関連文献をすべて系統的に検索した。中国語圏のデータベースを含めている点がこのレビューの特徴である。
基準を満たした28研究が組み入れられ、異質性と効果量を評価するメタ分析が行われた。抄録には参加者の総数は記載されていない。
4. 高地でHbとVO2maxはどれだけ上がるのか
全体としてはどちらも有意に上がる。ただし方式で分けると像が変わる。
| 対象 | アウトカム | 効果量 | 95%信頼区間 | p値 |
|---|---|---|---|---|
| 全体 | ヘモグロビン濃度 | MD = 0.36 | 0.16 〜 0.56 | < 0.01 |
| 全体 | VO2max | SMD = 0.78 | 0.30 〜 1.26 | < 0.01 |
| LHTH | ヘモグロビン濃度 | MD = 0.76 | 0.37 〜 1.15 | < 0.01 |
| LHTH | VO2max | SMD = 1.26 | 0.64 〜 1.87 | < 0.01 |
| LHTL | VO2max | SMD = 0.78 | 0.23 〜 1.33 | < 0.01 |
| HiHiLo・IHE | Hb・VO2max | 有意な増加なし | — | — |
ヘモグロビンについては、サブグループ解析で有意になったのはLHTHだけだった。VO2maxはLHTHとLHTLの両方で有意に上がっている。
一方、HiHiLoと間欠的低酸素曝露(IHE)では、どちらのアウトカムも有意な増加を示さなかった。高地に実際に滞在するかどうかが分かれ目になっているように見える。
そして量の条件がある。低酸素量が700 km·hを超える高地トレーニングでは、有酸素能力の改善が有意になったと報告されている。
著者らの結論は、十分な低酸素量があれば高地・低酸素トレーニングはトラック持久系アスリートのヘモグロビンとVO2maxを有意に高めうる、というものである。そのうえで、方式ごとに利点と限界があるため、種目・トレーニング目標・選手の水準・実際の条件にもとづいて合理的に配置すべきだとしている。
5. どの方式をどれだけやればいいのか
判断の順序は、まず量、次に方式になる。
量については700 km·hという目安が示されている。標高と時間の積であるため、標高が低ければそのぶん長く滞在する必要がある。週末だけの高地合宿ではこの量に届かない可能性が高い、という読み方はできる。
方式については、この解析が支持しているのは高地に滞在する形式である。ヘモグロビンを上げる目的ならLHTH、VO2maxならLHTHとLHTLのどちらでも有意な結果が出ている。一方、間欠的な低酸素曝露は有意にならなかった。
トライアスリートにとっての制約もはっきりしている。対象はトラックの持久系アスリートであり、三種目の練習を高地で成立させられるかという現実的な問題はこの論文の外にある。とくにスイムを高地で確保できるかどうかは、方式の選択より先に効いてくる条件である。
そして前提として、この論文が比較しているのは高地トレーニングを行った場合と行わなかった場合であって、同じ期間を平地で高強度に練習した場合ではない。機会費用の比較はここには含まれていない。
6. この研究の限界
まず抄録に参加者数の記載がない。28研究の背後にどれだけの選手がいるのかが分からず、サブグループに分けた各層の規模も追えない。
サブグループの結果は解釈に注意がいる。HiHiLoとIHEで有意にならなかったのは、効果がないためかもしれないし、その方式を扱った研究が少なかったためかもしれない。抄録は各サブグループの研究数を示していない。
方式の定義にも混乱がある。抄録ではLHTHとLHTLに同じ説明文が付されており、どちらがどの方式を指すのかを抄録だけからは確定できない。
700 km·hという閾値の導出過程も示されていない。この値がどのような解析から得られたのか、連続量を区切った結果なのかは追えない。
バイアスリスクの評価についても記載がない。異質性と効果量の評価は述べられているが、各研究の質がどう判定されたかは分からない。
そしてヘモグロビン濃度の上昇そのものは、競技成績の向上と同義ではない。この解析にはタイムトライアルやレース成績のアウトカムが含まれていない。
7. よくある疑問
どの高地トレーニング方式を選べばいいのか
この解析ではヘモグロビンを有意に上げたのはLHTHのみ、VO2maxを有意に上げたのはLHTHとLHTLの両方だった。HiHiLoと間欠的低酸素曝露(IHE)はどちらのアウトカムでも有意にならなかった。著者らは、方式ごとに利点と限界があるため、種目・目標・選手の水準・実際の条件に応じて合理的に組むべきだと述べている。
短い高地合宿でも効果はあるのか
この解析が条件として挙げているのは低酸素量である。低酸素量が700 km·hを超える高地トレーニングで有酸素能力の有意な改善が見られた、と報告されている。標高と滞在時間の積として量が決まるため、標高が低ければそのぶん長い滞在が要ることになる。
低酸素テントを使った曝露だけでも効くのか
この解析では、間欠的低酸素曝露(IHE)はヘモグロビンでもVO2maxでも有意な増加を示さなかった。有意になったのは高地に滞在する方式(LHTH、LHTL)である。
8. 出典
- Liu J, Zhu W, Song Y, Liu J, Yu H. The Effect Of Altitude Training On Aerobic Capacity In Track Athletes: A Meta Analysis. Medicine & Science in Sports & Exercise, 2024.
- DOI: https://doi.org/10.1249/01.mss.0001059788.57627.b8