同じ仕事量を踏んでも、その中身が高強度だったかどうかで脚の残り方は変わる。サイクリストの急性デュラビリティを扱った21研究のシステマティックレビューによれば、クリティカルパワーを超える強度では2.5〜15 kJ/kgの累積で10〜20%のパワー低下が起き、同等以上の仕事量でも低〜中強度なら低下は小さかった。
用語について。 「デュラビリティ(durability)」は、事前に仕事を積んだ後にどれだけパワーを保てるかを指す。この論文が扱うのは単一セッション内で誘発した疲労、つまり「急性」のデュラビリティである。数日単位の疲労の蓄積とは別の話として読む必要がある。
1. 何を調べた研究か
運動強度が、サイクリストの急性デュラビリティを変化させるのに必要な仕事量にどう影響するのか。そしてキロジュール(kJ)を疲労モニタリングの指標として使うことが妥当なのか。この二つが著者らの掲げた目的である。
前者だけなら生理学の問いだが、後者が加わることで実務の問いになる。パワーメーターが吐き出すkJという数字をそのまま疲労の代理指標にしてよいのか、という検証である。
2. これまで分かっていたこと
事前に積んだ仕事がその後のパフォーマンスを下げること自体は、繰り返し確かめられてきた。だからこそkJが疲労指標として広く使われている。
分かっていなかったのは、その関係が強度によってどう変わるかである。同じkJでも高強度で稼いだ場合と低強度で稼いだ場合とで、後半の出力低下が同じなのか違うのか。そこを整理した系統的なレビューがなかった、というのが著者らの出発点である。
3. どう調べたのか
PRISMAガイドラインに沿ってシステマティックレビューを実施した。Web of Science、Medline、Scopusを検索し、事前の累積仕事とサイクリストのパフォーマンス低下の関係または効果を評価した研究を集めている。
組み入れ条件は、単一セッション内で誘発した疲労の後にパワー出力を測定していること、そして事前の仕事がkJまたは他のトレーニング負荷指標で定量化されていることである。プロトコルはOSF(osf.io/kcg53)に登録されている。
最終的に21研究が組み入れられた。抄録には各研究の参加者数や競技レベルの内訳は示されていない。
4. 何kJ踏むとパワーは落ちるのか
落ちるまでの量は強度で変わる。これが主要な所見である。
| 事前の仕事の強度 | 累積仕事量 | その後のパワー出力 |
|---|---|---|
| 高強度(例:クリティカルパワー超) | 2.5〜15 kJ/kg | 10〜20%の低下 |
| 低〜中強度 | 同等かそれ以上 | 低下はより小さい |
読み取るべきは、二つの行が同じ仕事量の帯を共有しているのに結果が違う点である。低〜中強度では同等かそれ以上の仕事量をこなしてもパフォーマンス低下は小さかった、と著者らは記述している。つまりkJという単一の数字は、その中身が何だったかを保存しない。
もう一つの所見が指標そのものへの評価である。kJは最もよく使われる疲労指標だったが、強度を考慮しないため、デュラビリティ評価における精度に限界がある。著者らの結論は、運動強度がデュラビリティ関連のパフォーマンス低下を決めるうえで決定的な役割を果たしており、kJの排他的な使用は不十分かもしれない、というものである。
5. 練習とレースで負荷をどう数えればいいのか
kJの数字を、その日の強度分布と一緒に見る。この論文から取り出せる実務上の含意はそこにある。
たとえば総kJが同じライドでも、テンポ域で淡々と踏んだ日とVO2max域の反復を挟んだ日とでは、レビューの示す範囲においては後半の出力低下の意味が違う。ログ上の総kJだけを並べて「今週はよく踏んだ」と判断すると、脚に効いた分を取りこぼす。
著者らが必要だと述べているのは、強度を組み込んだ代替のアプローチである。何を使えばよいかまでは抄録に示されていないが、少なくともkJ単独では足りない、という方向は明確に打ち出されている。
レース戦略についても、著者らはこの所見が含意を持つとしている。トライアスロンのバイクパートで言えば、前半に高強度の踏み込みをどれだけ入れたかが、ランへ移る前の脚の残り方を左右しうるという読み方になる。ただし具体的な閾値は、この論文からは決められない。
デュラビリティの評価という点でも読み替えが要る。事前疲労なしのFTPテストで測った数字は、この論文が扱った「事前に仕事を積んだ後の出力」とは別の量である。持ちを知りたいなら、持ちを測る条件で測る必要がある。
6. この研究の限界
まずこれはメタ分析ではなくシステマティックレビューである。効果量が統合されておらず、10〜20%という幅も研究をまたいだ観察の記述にとどまる。
対象集団が見えないことも大きい。21研究の参加者総数、性別構成、競技レベルはいずれも抄録に記載されていない。デュラビリティは鍛錬度に依存しうる特性だが、その内訳を確かめられない。
指標の不揃いも残る。組み入れ条件は「kJまたは他のトレーニング負荷指標」で定量化していることであり、研究ごとに異なる指標が使われている可能性がある。統合された数値ではなく傾向として読むべき理由がここにもある。
そして高強度の定義が緩い。「例:クリティカルパワー超」と示されるだけで、どの研究がどの強度域を高強度としたのかは抄録から追えない。
7. よくある疑問
kJで練習量を管理するのはやめるべきなのか
やめるべきとまでは書かれていない。著者らの指摘は、kJを唯一の疲労指標として使うことが不十分かもしれず、強度を組み込んだ代替のアプローチが必要だ、というものである。kJが無意味だという主張ではなく、同じkJでも中身が違うことを踏まえて使う必要がある、という趣旨になる。
高強度と低強度でどれくらい違うのか
抄録が示している具体的な範囲は、高強度の事前仕事2.5〜15 kJ/kgの後に10〜20%のパワー低下が観察された、というものである。低〜中強度については、同等かそれ以上の仕事量でもパフォーマンス低下は小さかった、と記述されるにとどまり、対応する数値は示されていない。
レース前半の走り方に何を意味するのか
著者らは、この所見がトレーニング処方とレース戦略に含意を持つとし、強度を特定した負荷の定量化が必要だと述べている。ただし、レースのどの局面でどれだけ高強度を使ってよいかという具体的な指針は示されていない。示されたのは、前半の踏み方の中身が終盤の出力に効くという方向性までである。
8. 出典
- Sánchez-Jiménez JL, Salas-Montoro JA, Mateo-March M, Priego-Quesada JI, Zabala M, Pérez-Díaz JJ. Is intensity the most important factor in determining the amount of prior work accumulated that affects cyclists’ acute durability? A systematic review. European Journal of Applied Physiology, 2026.
- DOI: https://doi.org/10.1007/s00421-025-05885-0