ソールを厚くすると、接地時間は延び、荷重率は下がる。ソール厚を主変数に据えた14研究のシステマティックレビューによる整理である。足関節では初期接地時の背屈と前額面のピーク外反が増える一方、ランニングエコノミーを調べた研究は1件しかなく、有意な効果は出ていない。
用語について。 「荷重率(loading rate)」は地面反力が立ち上がる速さ、「外反(eversion)」は接地後に踵が内側へ倒れ込む動きを指す。このレビューが対象にしたのは、ソール厚を主たる関心変数として扱った研究に限られる。厚底シューズ一般ではなく「厚さそのもの」の効果を切り出そうとしている点が枠組みの中心にある。
1. 何を調べた研究か
ソール厚が、時空間変数・キネマティクス・キネティクス・ランニングエコノミーに与える効果を検討すること。それが著者らの目的である。
意図的に対象を絞っている。先進的なフットウェア技術(AFT)ではソール厚が他のシューズ特性と一緒に変わってしまうため、厚さが主たる関心変数になっている研究だけを集めた、という設計である。
2. これまで分かっていたこと
AFTがパフォーマンス上の利点をもたらしうる一方で、傷害リスクへの懸念が残っていることは背景に置かれている。
そのなかでソール厚はとりわけ議論の的だった。不公平な競技上の優位を防ぐためにワールドアスレティックスが40mmの制限を課したことで、厚さそのものが焦点になったからである。ところが、ソール厚が走りのバイオメカニクスとエコノミーに何をするのかはよく分かっていない。シューズ設計のなかでソール厚が他の特性と共変してしまうことが、その理由として挙げられている。
3. どう調べたのか
PRISMAガイドラインに沿って系統的な文献検索を実施した。組み入れ対象は、あらゆる習熟度の参加者を含むランニングの原著研究で、時空間変数、キネマティクス、キネティクス、ランニングエコノミーのいずれかを解析しているものである。
条件を満たしたのは14研究で、その多くは男性のレクリエーションランナーまたは経験のあるランナーを対象としていた。
4. ソールを厚くすると走りは何が変わるのか
変わるところと変わらないところが、はっきり分かれている。
| 領域 | 厚いソールでの変化 |
|---|---|
| 接地時間 | 延長 |
| その他の時空間パラメータ | 変化なし |
| 足関節キネマティクス | 初期接地時の背屈が増加 |
| 膝・股関節の動き | 影響は小さい |
| 前額面 | ピーク外反が増加 |
| 関節キネティクス・剛性・重心移動 | 一貫した傾向なし |
| 垂直地面反力のピーク | ほぼ変化なし |
| 荷重率 | 概して低下 |
| ランニングエコノミー | 1件のみが評価、有意な効果なし |
読み取るべき対比は、地面反力のピークが変わらないのに荷重率は下がった、という組み合わせである。同じ大きさの力が、より緩やかに立ち上がる。厚いミッドソールが緩衝材として働いていることと整合する。
足元の動きも変わっている。初期接地時により背屈するということは、踵からの入り方が変わることを意味する。同時に前額面ではピーク外反が増えており、内側への倒れ込みは大きくなる方向にある。
一方で膝と股関節への影響は小さく、関節キネティクスや脚剛性、重心の動きには一貫した傾向が出ていない。
著者らの結論も控えめで、厚いソールは主として接地時間の延長と荷重率の低下に結びついていた、という記述にとどまっている。
5. 厚さで選ぶとき何を見ればいいのか
このレビューが与えるのは「厚さを変えると何が動くか」であって、「厚いほうが速い/安全だ」ではない。
エコノミーについては、そもそも材料がない。14研究のうちランニングエコノミーを評価したのは1件だけで、しかも有意な効果は出ていない。厚底シューズが代謝的な利点を持つという報告は別に存在するが、それはフォームやプレートを含むシューズ全体の効果であって、厚さ単独の効果ではない。この区別がこのレビューの主眼である。
傷害についても直接の答えはない。荷重率の低下は衝撃の立ち上がりが緩やかになる方向だが、前額面のピーク外反は増えている。二つは違う方向を向いており、どちらが効くかを判断する材料はここにない。
実務的に使えるのは、接地時間が延びるという所見だろう。ケイデンスや接地の感覚が変わったときに、それがシューズの厚さに由来しうると知っていれば、フォームの問題と取り違えずに済む。
トライアスロンのランでは疲労した状態で走ることになるが、この論文が扱ったのは疲労のない条件での計測である。ラン単独の知見として読むのが妥当だ。
6. この研究の限界
著者らが明記しているのは根拠の確実性の低さである。方法論の不均一さと研究数の少なさにより、アウトカム全体を通じて確実性は低いから非常に低いと判定された。
対象集団も偏っている。組み入れられた研究の多くは男性のレクリエーションランナーまたは経験者で、著者ら自身が今後の研究では女性ランナーや前足部接地のランナーを含むより多様な集団を対象にすべきだと述べている。
そしてランニングエコノミーは実質的に未検証である。1件のみという状況で、パフォーマンスへの含意を論じることはできない。
シューズ特性の報告も不十分だと指摘されている。著者らは今後の研究がシューズ特性を包括的に報告すべきだとしており、裏を返せば既存研究では厚さ以外の条件が十分に揃っていない可能性が残る。
さらに、筋活動や運動の協調といった側面は未探索のまま残されている、と結論部で述べられている。
7. よくある疑問
ソールが厚いほど故障しにくいのか
このレビューからは判断できない。荷重率が概して低下したという所見は衝撃の立ち上がりが緩やかになる方向を示すが、同時に前額面のピーク外反が増加している。傷害の発生そのものを追跡した研究ではなく、著者らも傷害リスクへの懸念が残ると背景で述べるにとどまっている。
厚くすればランニングエコノミーは良くなるのか
このレビューでは確かめられていない。ランニングエコノミーを評価した研究は14件中1件のみで、有意な効果は認められなかった。厚底シューズ全体の代謝的な利点を報告した研究は別に存在するが、それはソール厚だけを切り出した結果ではない。
40mmという上限にはどんな根拠があるのか
この論文は上限値の妥当性を検証していない。抄録が述べているのは、不公平な競技上の優位を防ぐためにワールドアスレティックスが40mmの制限を課した、という経緯と、それによってソール厚が議論の的になったという背景である。
8. 出典
- Kettner C, Krapp F, Stein T. The Effects of Shoe Sole Thickness on Running Biomechanics and Economy: A Systematic Review. Sports Medicine - Open, 2026.
- DOI: https://doi.org/10.1186/s40798-026-01020-1