TECH · テクノロジー EV.5 システマティックレビュー

スマートウォッチのVO2max推定は市民ランナーなら使える。エリート持久系では疑わしい

消費者向けウェアラブルによるVO2maxと乳酸閾値の推定妥当性を扱った13研究のシステマティックレビュー。7研究がVO2max推定を妥当または許容できると判定し、乳酸閾値の妥当性を示したのは3研究だった。妥当な推定は最大下のランから算出されており、エリート持久系種目での有用性には疑問が残るとされている。

種目 全体 出典 Frontiers in Sports and Active Living(2025) 読了 約6分 公開 2026年8月3日
A woman in activewear on a running track checks her smartwatch after a workout.
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この研究でわかったこと

  1. 01 当初特定された252件の記録のうち13研究が組み入れ基準を満たした。多くはGarminのスマートウォッチと対応する胸ベルト式心拍センサー、Firstbeat Technologiesのアルゴリズムを検証している。
  2. 02 7研究でウェアラブルがゴールドスタンダードと比べてVO2max推定に妥当または許容できると判定された。乳酸閾値の妥当性を示したのは3研究にとどまる。
  3. 03 著者らは、健康な非鍛錬成人・レクリエーションアスリート・チームスポーツのプロ選手では妥当な推定が示されたとする一方、エリート持久系種目での有用性は疑わしく、人工知能に依存するかもしれないと述べている。

消費者向けウェアラブルのVO2max推定は、市民ランナーの水準なら使える。13研究を整理したシステマティックレビューの結論である。ただし妥当性を示したのは7研究にとどまり、乳酸閾値については3研究しかない。エリート持久系種目での有用性には疑問が残るとされている。


用語について。 「ゴールドスタンダード」はここでは実験室のトレッドミル漸増負荷テスト(GXT)による直接測定を指す。ウェアラブル側の推定は、屋外での最大下ランから算出される。「Firstbeat Technologies のアルゴリズム」は多くのスマートウォッチに組み込まれている推定エンジンで、この分野の検証対象の中心になっている。

1. 何を調べた研究か

消費者向けウェアラブルが推定するVO2maxと乳酸閾値の妥当性について、近年の研究を分析し系統的にまとめること。それが著者らの目的である。

背景には、高価な実験室的手法の制約をウェアラブルセンサーと機械学習アルゴリズムの進歩が補いうる、という期待がある。非侵襲で連続的なモニタリングという利点がある一方、その精度を管理し保証する必要がある、というのが問題設定である。

2. これまで分かっていたこと

ウェアラブルがVO2maxの推定値を表示すること自体は、すでに広く普及している。だがその数値が実験室の直接測定とどこまで一致するのかは、機種・アルゴリズム・対象集団ごとにばらばらに検証されてきた。

このレビューは、その散らばりを一枚に並べることを狙っている。

3. どう調べたのか

PRISMAガイドラインに沿って、Web of Science、SPORTDiscus、Medlineを系統的に検索した。バイアスリスクは診断精度研究の質評価ツール(QUADAS)のバージョン2で評価している。

当初特定された252件の記録のうち、13研究が定めた組み入れ基準を満たした。多くはGarminのスマートウォッチと対応する胸ベルト式心拍センサー、そしてFirstbeat Technologiesのアルゴリズムを検証したものである。

VO2maxはすべての事例で実験室のトレッドミル漸増負荷テストによって測定され、推定値は屋外での最大下ランから生成された。組み入れられた研究の対象は、健康な非鍛錬の成人、レクリエーションアスリート、そして高度に鍛錬されたまたはプロのアスリートがほぼ均等に含まれている。

4. どこまで当たるのか

VO2maxについては半数強、乳酸閾値については四分の一に満たない研究が妥当性を支持した。

推定対象妥当性を示した研究数対象集団の評価
VO2max13研究中7研究非鍛錬成人・レクリエーション・チームスポーツのプロで妥当
乳酸閾値13研究中3研究抄録に集団別の記述なし

VO2max推定については、7研究がゴールドスタンダードの測定と比べて妥当または許容できると判定した。裏を返せば、残りの研究ではそう判定されていない。

著者らの評価は集団によって分かれている。健康な非鍛錬の成人、レクリエーションアスリート、チームスポーツのプロ選手においては妥当な推定が示された。一方で、エリート持久系種目における有用性は疑わしく、人工知能に依存するかもしれないとされている。

重要な所見として挙げられているのは、妥当な推定が最大下テストから算出されたという点である。これによって消費者向けウェアラブルは、いくつかの制約を抱える実験室のGXTに対する使いやすい代替となる、というのが著者らの整理である。

精度の改善についても示唆がある。指標テストとして2回以上の最大下ランを用いれば妥当性が改善しうるが、さらなる検討が必要だとされている。

5. 自分の数値をどう扱えばいいのか

絶対値としてではなく、同じ条件で追う相対値として扱う。この結論から素直に導けるのはそこである。

まず自分がどの集団に近いかを見極める。エイジグルーパーの多くはレクリエーションアスリートの範囲に入り、そこでは妥当な推定が示されている。一方、地域大会で上位に入るような持久系の水準になると、著者らが疑問を呈した領域に近づく。皮肉なことに、数値を真剣に使いたい人ほど精度が落ちる構図になっている。

乳酸閾値については、さらに慎重でよい。妥当性を示した研究が3件しかない指標を、練習強度の基準として運用する根拠は薄い。閾値ペースを決めるなら、フィールドテストや実測のほうが筋が通る。

精度を上げる方法として挙げられているのは、2回以上の最大下ランを使うことである。日々のジョグを同じコース・同じ条件で走ることは、この提案と方向が一致する。

そしてアルゴリズムの安定性は未検証である。著者らは、数か月から数年にわたって精度を追跡する縦断研究が必要だと述べている。ファームウェア更新で推定値が変わりうることを考えると、長期のトレンドを読むときにはこの点が効く。

6. この研究の限界

まず規模である。13研究というのは、三つの集団と二つの指標に分けて評価するには少ない。乳酸閾値の3研究は、集団別の議論ができる水準にない。

機種の偏りも大きい。多くがGarminのスマートウォッチとFirstbeatのアルゴリズムを対象にしている。他社の機種やアルゴリズムに同じ結論が当てはまるかは分からない。

統合が記述的である点も押さえておきたい。メタ分析ではないため、推定誤差の大きさが数値として統合されていない。「妥当または許容できる」という判定が、どれだけのずれを許した判定なのかは抄録から読み取れない。

対象集団の内訳も、人数の水準では示されていない。三つの集団がほぼ均等に含まれるとあるが、各集団の参加者数は記載がない。

そして胸ベルト式心拍センサーとの組み合わせが検証の中心になっている点は、実際の使われ方とずれる可能性がある。光学式センサーのみで走る場合の精度は、この構成の検証からは直接には読み取れない。

7. よくある疑問

スマートウォッチが出すVO2maxは信用できるのか

集団による、というのがこのレビューの答えである。健康な非鍛錬の成人、レクリエーションアスリート、チームスポーツのプロ選手では妥当な推定が示された。一方でエリート持久系種目における有用性は疑わしいとされている。なお13研究のうちVO2max推定を妥当または許容できると判定したのは7研究である。

乳酸閾値の推定はどうなのか

根拠はさらに薄い。乳酸閾値の推定の妥当性を示したのは13研究のうち3研究にとどまる。VO2max推定(7研究)と比べても検証の蓄積が少なく、この指標をウェアラブルの数値で運用する根拠は限られている。

推定の精度を上げる方法はあるのか

著者らは、指標テストとして2回以上の最大下ランを用いれば妥当性が改善しうるとしつつ、さらなる検討が必要だと述べている。またアルゴリズムの安定性を知るには、数か月から数年にわたって精度を追跡する縦断研究が必要だとも指摘している。

8. 出典

  • Železnik Mežan L. Accuracy of wearables for determining the maximal oxygen uptake and lactate threshold: a systematic review. Frontiers in Sports and Active Living, 2025.
  • DOI: https://doi.org/10.3389/fspor.2025.1707991
CITATION Accuracy of wearables for determining the maximal oxygen uptake and lactate threshold: a systematic review(Frontiers in Sports and Active Living, 2025) doi:10.3389/fspor.2025.1707991 ↗