1RMの80%以上を扱う高重量の筋力トレーニングは、持久系サイクリストのVO2maxを変えない。17研究262名を統合したメタ分析では、VO2max・pVO2max・最大代謝定常状態・無酸素能力のいずれにも有意な効果が出なかった。それでもサイクリングパフォーマンスは有意に改善しており(効果量0.463)、説明にあたるのはサイクリング効率と無酸素パワーだった。
1. 何を調べた研究か
1RM(1回だけ挙げられる最大重量)の80%以上を扱う高重量の筋力トレーニングが、持久系サイクリストのパフォーマンスを決める生理学的な指標のどれを動かし、どれを動かさないのか。それがこの研究の問いである。
サイクリングのパフォーマンスは、VO2max、最大代謝定常状態(MMSS)、無酸素性のエネルギー供給(無酸素能力と無酸素パワー)、サイクリング効率、そしてVO2maxに対応するパワー(pVO2max)で決まると考えられてきた。筋力トレーニングがこれらを改善しうることも、以前から言われている。ただし「筋力トレーニング」とひとくくりにされてきた中身は幅が広く、著者らはそこを高重量に絞り込んだ。
2. これまで分かっていたこと
筋力トレーニングが持久系種目の決定要因を改善しうる、という方向性そのものは既知だった。しかし著者らは、負荷を1RMの80%以上に限定した場合の効果がまだ明らかになっていない、と整理している。
つまり出発点は「効くらしい」ではなく「どの重さで、どの指標に効くのかが分かっていない」という状態だった。
3. どう調べたのか
PubMed、Web of Science、Scopus を対象に、2025年2月までに収録された論文を系統的に検索した。採用条件はPICOSに沿って設定されている。
対象は18歳以上の持久系サイクリストで、性別と競技レベルの制限は設けていない。介入は3週間以上の高重量筋力トレーニング。比較群は、高重量筋力トレーニングを行わずに持久系のサイクリングトレーニングだけを行ったグループ。アウトカムは前述の生理学的決定要因と、疲労困憊までの時間およびタイムトライアル(解析では合算してひとつの「サイクリングパフォーマンス」として扱われた)。研究デザインは無作為化・非無作為化を問わず対照研究とした。
各研究のバイアスリスクはPEDroスケールで、アウトカムごとのエビデンスの確実性はGRADEで評価している。統合には変量効果モデルを用い、サイクリング効率だけは3レベルの変量効果モデルを使った。さらに参加者と介入の特性についてモデレーター分析を行っている。有意水準はp≦0.05。
最終的に17研究、262名(うち女性60名)が組み入れられた。参加者の平均初期VO2maxは61.25 ml/kg/min。介入期間は5〜25週、頻度は週1〜3セッションだった。
4. 高重量の筋トレでVO2maxは上がるのか
上がらなかった。対照群と比べて有意な効果が出たのは、VO2max関連の指標ではなく、効率とパワー、そしてパフォーマンスそのものだった。
| アウトカム | 効果量 | p値 | I² |
|---|---|---|---|
| サイクリング効率 | 0.353 | 0.012 | 3レベルモデルで解析 |
| 無酸素パワー | 0.560 | 0.024 | 29.100 |
| サイクリングパフォーマンス | 0.463 | 0.016 | < 0.001 |
| VO2max・pVO2max・最大代謝定常状態・無酸素能力 | 有意差なし | ≧ 0.263 | < 0.001 |
モデレーター分析でも動きは出なかった。参加者の特性(性別、体重、身長、競技レベル、筋力トレーニングの経験)でも、介入の特性(期間、頻度、総セッション数)でも、有意な調整効果は認められていない(すべてp ≧ 0.170)。
著者らは結論として、高重量の筋力トレーニングは持久系サイクリストのサイクリングパフォーマンスを改善しうるとし、その改善はおもにサイクリング効率と無酸素パワーの改善によるものかもしれない、と述べている。ただしエビデンスの確実性は低く、最適な実施方法についての強い推奨はできない、と自ら釘を刺している。
5. バイクの筋トレの効果は何を見て判断すればいいのか
VO2maxテストの数字ではなく、タイムトライアルや同一パワーでの酸素摂取量を見るほうが筋が通る。この統合結果がいちばん実用的に効くのは、その評価軸の置き換えだ。
もしバイクの筋トレを「VO2maxを上げるため」の手段として組んでいるなら、この論文はその期待に応えていない。有意差が出たのはサイクリング効率と無酸素パワー、つまり同じ酸素量からどれだけの出力を引き出せるかという側面と、短時間の出しきりの側面だった。動いたところを測らなければ、効いていても数字には表れない。
読み替えの注意もある。対象は平均初期VO2maxが61.25 ml/kg/min の持久系サイクリストである。論文は競技レベルに制限を設けていないので「エリート限定の話」ではないが、逆に「誰にでも当てはまる」とも言っていない。手がかりはこの平均値だけなので、自分がここから大きく離れていると感じるなら、そのぶん割り引いて読むのが妥当だろう。
処方についてはこの論文からは決められない。組み入れられた研究の負荷は1RMの80%以上、期間は5〜25週、頻度は週1〜3セッションだったが、モデレーター分析では期間・頻度・総セッション数のいずれも効果の大きさを説明しなかった。少なくともこの範囲内では、頻度を上げれば上げるほど効くという関係は見えていない。著者らが「確実性は低いので最適な実施方法について強い推奨はできない」と書いている点は、そのまま受け取っておきたい。これは「週◯回やれ」を教えてくれる論文ではない。
6. この研究の限界
最大の限界は著者ら自身が明記している。GRADE評価の結果、エビデンスの確実性は低いと判定されている。有意差が出たアウトカムについても、そこから確定的な処方を導ける段階にはない。
デザイン面では、組み入れが無作為化研究に限定されず、非無作為化の対照研究も含まれている。また「サイクリングパフォーマンス」は疲労困憊までの時間とタイムトライアルという性質の違う指標を合算した値であり、どちらが動いたのかはこの統合値からは分からない。
規模も小さい。17研究262名で、うち女性は60名にとどまる。モデレーター分析で性別に有意な調整効果が出なかったとはいえ、女性サイクリストについて何かを言い切れるだけのデータ量ではない。
そして負荷が1RMの80%以上という条件で切り出されているため、それより軽い負荷での筋力トレーニングについてはこの論文は何も述べていない。
7. よくある疑問
自分の走力でも同じことが起きるのか
組み入れ条件は18歳以上の持久系サイクリストで、性別にも競技レベルにも制限は設けられていない。ただし抄録から読み取れる参加者像は、262名の平均初期VO2maxが61.25 ml/kg/minという一点だけである。自分がここから大きく離れていると感じるなら、そのぶん割り引いて読むのが妥当だろう。
女性サイクリストにも当てはまるのか
断定できる材料はない。262名のうち女性は60名で、モデレーター分析では性別に有意な調整効果が見つからなかった(すべてp ≧ 0.170)。ただし「差が見つからなかった」は「差がない」と同じではなく、この人数で女性について何かを言い切れるわけではない。
結局、週に何回・何週間やればいいのか
この論文は答えていない。組み入れられた介入は5〜25週、週1〜3セッションの範囲にあったが、モデレーター分析では期間・頻度・総セッション数のいずれも効果の大きさを説明しなかった(すべてp ≧ 0.170)。著者らも、エビデンスの確実性が低いため最適な実施方法について確かな推奨はできない、と明記している。
8. 出典
- Llanos-Lagos C, Ramirez-Campillo R, Sáez de Villarreal E. Heavy strength training effects on physiological determinants of endurance cyclist performance: a systematic review with meta-analysis. European Journal of Applied Physiology, 2026.
- DOI: https://doi.org/10.1007/s00421-025-05883-2