筋力トレーニングは、中距離・長距離の持久系アスリートのランニングエコノミーを改善する。ただしVO2maxは動かない。17件のシステマティックレビュー(うち12件はメタ分析)を束ねたアンブレラレビューでは、ランニングエコノミーに中〜大の効果が全研究で観察された一方、VO2maxを検討した4件のメタ分析はいずれも有意な変化を認めなかった。
用語について。 「アンブレラレビュー」は、個別の研究ではなく既存のシステマティックレビューやメタ分析を集めて束ねる形式のレビューである。したがってここで読むのは「研究の要約の要約」であり、元の研究の質がそのまま結論の質に効く。
1. 何を調べた研究か
持久系トレーニングを積んだアスリートにおいて、筋力トレーニングが持久パフォーマンスの決定要因に与える効果を、既存のシステマティックレビューとメタ分析の総体として整理すること。それが著者らの目的である。
分析対象になった変数は、VO2max、持久パフォーマンス、最大有酸素スピードまたはパワー、仕事の経済性とランニングエコノミー、エネルギーコスト、そして有酸素性・無酸素性の乳酸閾値である。
2. これまで分かっていたこと
筋力トレーニングが持久パフォーマンスを高める目的で使われていること自体は確立している。著者らもそれを前提として置いている。
問題は結果が揃わないことだった。すべての研究が改善を見出したわけではなく、その理由として著者らは研究間の異質性と、用いられたトレーニング方法論の多様さを挙げている。個別のレビューを一つずつ読んでも像を結ばない、という状況である。
3. どう調べたのか
アンブレラレビューとして実施された。筋力トレーニングのプログラムは三つに分類されている。最大筋力トレーニング(1RMの80%超)、爆発的筋力トレーニング(1RMの80%未満)、リアクティブ筋力トレーニング(プライオメトリクス)である。
組み入れ対象は、中距離から長距離の持久系トレーニングを積んだ男女のアスリート。最終的に17件のシステマティックレビューが組み入れられ、そのうち12件はメタ分析を伴っていた。
各レビューのバイアスリスクも評価されている。抄録には統合された参加者の総数は示されていない。
4. 筋トレで何が良くなり、何が動かないのか
改善したのはランニングエコノミー、動かなかったのはVO2max。この対比がこのレビューの中心にある。
| 指標 | 結果 | 根拠となった研究 |
|---|---|---|
| ランニングエコノミー | 中程度から大きな効果 | すべての研究で観察 |
| VO2max | 有意な変化なし | 4件のメタ分析すべて |
| 持久パフォーマンス(プライオメトリクス) | 小さな効果 | 3件。対照群比較で大きな効果は1件のみ |
ランニングエコノミーについては、すべての研究で中程度から大きな効果が観察された、と抄録は述べている。持久系種目で同じ速度をより少ない酸素で走れるようになる、という方向の変化である。
一方でVO2maxを検討した4件のメタ分析は、いずれも有意な変化を認めなかった。ここで著者らが結論に使った言葉は「維持を助ける(helps maintain)」であって、「向上させる」ではない。
プライオメトリクスについては、持久パフォーマンスへの影響を扱った3件の研究で小さな効果が示され、対照群と比較して大きな効果を認めたのは1件にとどまっている。
総括として著者らは、筋力トレーニングは中距離・長距離の持久系アスリートにおいて持久パフォーマンスとランニングエコノミーを改善し、VO2maxの維持を助けると述べ、持久系プログラムへの筋力トレーニングの統合を全般的に支持している。
5. 何を狙って筋トレを組むべきか
VO2maxではなくエコノミーを狙う。この論文が支持しているのはその置き換えである。
もし筋力トレーニングを「心肺を鍛える」目的で組んでいるなら、期待の置き場所が違う。VO2maxを検討した4件のメタ分析が揃って有意差を出していない以上、そこに効果を期待する根拠はここにはない。動くのは同じ速度を走るコストのほうである。
評価の仕方も変わる。エコノミーの変化は、VO2maxテストの最大値ではなく、決まったペースでの酸素摂取量やレースタイムに現れる。測る場所を変えなければ、効いていても数字には出ない。
種類の選択については、この論文は決め手を与えていない。分類は最大筋力(1RMの80%超)、爆発的筋力(1RMの80%未満)、プライオメトリクスの三つに分けられているが、抄録で個別に効果が示されているのはプライオメトリクスだけで、しかもその効果は小さい。どれをどれだけやるべきかという処方は、ここからは決められない。
トライアスリートが読むときの注意もある。対象は中距離から長距離の持久系アスリートで、ランニングエコノミーが主要な着地点になっている。バイクやスイムの経済性について同じことが言えるかは、この論文の射程の外にある。
6. この研究の限界
最大の限界は根拠の質である。バイアスリスク評価の結果、大半の研究が低いまたは極めて低い信頼性水準にあると判定された。具体的な問題として挙げられているのは、網羅的な文献検索、除外理由の明示、出版バイアスの扱いである。
アンブレラレビューという形式そのものにも制約がある。元のレビューが同じ原著研究を重複して含んでいる可能性があり、そのぶん効果が実際より確からしく見えることがある。抄録にはこの重複の扱いについて記載がない。
効果量が示されていない点も読み手にとっては痛い。ランニングエコノミーについて「中程度から大きな効果」とだけ書かれており、対応する数値や信頼区間は抄録にない。
規模も分からない。17件のレビューの背後にどれだけの原著研究と参加者がいるのかは示されていない。
7. よくある疑問
筋トレをすればVO2maxは上がるのか
このアンブレラレビューの範囲では上がっていない。VO2maxへの影響を検討した4件のメタ分析のうち、有意な変化を認めたものはひとつもなかった。著者らの表現も「向上させる」ではなく「維持を助ける」であり、筋力トレーニングをVO2max向上の手段として組むことはここでは支持されていない。
プライオメトリクスは持久パフォーマンスに効くのか
効果は小さい、というのがこのレビューの整理である。プライオメトリクス(リアクティブ筋力トレーニング)の持久パフォーマンスへの影響を扱った3件の研究では小さな効果が示され、対照群と比較して大きな効果を認めたのは1件にとどまった。
この結論はどれくらい信頼できるのか
強くはない。著者ら自身のバイアスリスク評価で、大半の研究が低いまたは極めて低い信頼性水準と判定されている。問題として挙がっているのは網羅的な文献検索、除外理由の明示、出版バイアスの扱いである。方向としては筋力トレーニングを支持しているが、根拠の質は高くない。
8. 出典
- Ramos-Campo DJ, Andreu-Caravaca L, Clemente-Suárez VJ, Rubio-Arias JÁ. The Effect of Strength Training on Endurance Performance Determinants in Middle- and Long-Distance Endurance Athletes: An Umbrella Review of Systematic Reviews and Meta-Analysis. Journal of Strength and Conditioning Research, 2025.
- DOI: https://doi.org/10.1519/jsc.0000000000005056