RECOVERY · リカバリー EV.5 システマティックレビュー(観察研究)

短いレースでは中枢性、100km超では末梢性。トレイルの疲労は距離で質が変わる

トレイルランニングの疲労機序を24研究674名から整理したシステマティックレビュー。短いレースでは中枢性疲労が優勢で、100km以上の長いイベントでは末梢性疲労と筋損傷が明瞭になる。性差は最小限だが、方法論の不均一さが所見の強さと比較可能性を制限している。

種目 ラン 出典 International Journal of Sports Physiology and Performance(2026) 読了 約6分 公開 2026年8月3日

この研究でわかったこと

  1. 01 トレイルランニングの神経筋疲労は中枢性と末梢性の両方の機序から生じ、レース時間と検査方法によって現れ方が変わる。
  2. 02 短いレースでは中枢性疲労が優勢である一方、100km以上の長いイベントでは末梢性疲労と筋損傷がより明瞭になる。
  3. 03 性差は最小限だった。ただし24研究のうち21研究が男性のみまたは男性中心で、性差を明示的に評価したのは4研究にとどまる。方法論の不均一さが所見の強さと比較可能性を制限している。

トレイルランニングの疲労は、距離によって質が変わる。24研究674名を整理したシステマティックレビューによれば、短いレースでは中枢性疲労が優勢で、100km以上のイベントでは末梢性疲労と筋損傷がより明瞭になる。性差は最小限とされるが、対象の大半が男性であるため根拠は薄い。


用語について。 「中枢性疲労」は神経系から筋への駆動が落ちることによる出力低下、「末梢性疲労」は筋そのものの収縮機能が落ちることによる低下を指す。両者は膝伸展筋や足底屈筋のトルク測定によって切り分けられる。「テンシオミオグラフィ」は筋の収縮特性を非侵襲的に測る手法である。

1. 何を調べた研究か

トレイルランニングのパフォーマンスを制約する疲労の機序を系統的にレビューし、性別とレース距離がこれらの反応に与える影響を検討すること。それが著者らの目的である。

距離と性別という二つの軸を明示的に置いている点が、このレビューの設計の特徴になっている。

2. これまで分かっていたこと

長時間の運動の後に神経筋疲労が生じること自体は繰り返し観察されてきた。争点は、その疲労が中枢性なのか末梢性なのか、そしてそれがレースの長さによってどう変わるかだった。

トレイルランニングは下りの伸張性収縮を多く含むため、平地のロードランニングとは疲労の質が異なる可能性がある。しかし個別の研究は距離も測定手法もばらばらで、全体像が結ばれていなかった。

3. どう調べたのか

PRISMAガイドラインに沿って、PubMed、Web of Science、Dimensions AIを2025年まで検索した。

対象は、標準的なトレイルレースまたは実験室でのレースシミュレーションの前後で疲労マーカーを比較した、訓練された、または経験のある成人トレイルランナーを含む研究である。バイアスリスクはROBINS-Iで評価された。

組み入れられたのは24研究、計674名(男性506名、女性168名)である。参加者は訓練された成人で、平均年齢は39.4(8.5)歳、各研究の標本は6〜72名の範囲だった。

レース距離別では、短いレース(60km以下)を扱った研究が4件、中距離(60〜100km)が4件、長距離(100km以上)が8件、同一研究内で複数の距離を比較したものが8件である。

4. 疲労はどう変わるのか

距離が長くなるにつれ、疲労の主役が中枢から末梢へ移る。

レース距離優勢な疲労
短いレース中枢性疲労
長いイベント(100km以上)末梢性疲労と筋損傷

疲労の評価は主として膝伸展筋と足底屈筋のトルク測定に依拠し、中枢性疲労と末梢性疲労を切り分けている。これにテンシオミオグラフィ、軟部組織の振動、筋力テスト、跳躍テストといった代替手法が補完的に用いられた。24研究のうち10研究は、筋損傷・炎症・腎機能に関わる血中バイオマーカーも解析している。

性差については最小限だとされている。ただしその根拠は薄い。24研究のうち21研究が男性のみまたは男性中心の対象で、性差を明示的に評価したのはわずか4研究である。

著者らの結論は、トレイルランニングにおける神経筋疲労が中枢性と末梢性の両方の機序から生じ、レース時間と検査方法に依存する、というものである。そのうえで、方法論の不均一さが所見の強さと比較可能性を制限しているとしている。

5. 距離に応じて何を備えるか

疲労の質が変わるなら、対策も変わる。この論文はその方向を示している。

短いレースで中枢性疲労が優勢だという所見は、神経系の駆動を保つ問題として捉えられる。精神的疲労がパフォーマンスを下げるという別の研究群と接続しうる領域である。

一方、100kmを超えるイベントで末梢性疲労と筋損傷が明瞭になるという所見は、筋そのものの耐久性の問題を指す。下りの伸張性収縮による筋損傷への備えが、より長い距離ほど重要になるという読み方ができる。

トライアスロンへの読み替えには距離の対応を考える必要がある。ロングディスタンスのランパートは、この分類でいえば短いレースの側に近い。ただしトレイルと違って前段の種目による疲労が乗っており、単純な比較はできない。

血中バイオマーカーで腎機能が扱われている点も見逃せない。10研究がそれを解析対象に含めており、長時間の運動が腎臓に負荷をかけうることが認識されていることを示す。ただし具体的な所見は抄録に示されていない。

そして性差についての結論は、実質的に保留と考えたほうがよい。「最小限」という記述は、性差を評価した4研究にもとづく。女性ランナーが自分に当てはめるには根拠が足りない。

6. この研究の限界

まず性別の偏りである。674名のうち女性は168名、24研究のうち21研究が男性のみまたは男性中心だった。性差が最小限という結論を支えるのは4研究にすぎない。

方法論の不均一さは著者ら自身が明記している。所見の強さと比較可能性が制限される、というのがその評価である。測定手法が研究ごとに違えば、疲労の「量」を比べることができない。

各距離帯の研究数も少ない。短いレース4件、中距離4件、長距離8件という配分で、距離による違いを論じるには薄い。

標本の幅も大きい。各研究の参加者は6〜72名と開きがあり、小規模な研究が混じっている。

デザインも観察に限られる。レース前後の比較であり、介入によって疲労の質を変えられるかを確かめたものではない。

そして効果量が示されていない。「優勢である」「明瞭になる」という記述にとどまり、疲労の大きさを数値で追えない。

7. よくある疑問

距離によって疲労の中身が変わるのか

このレビューの結論はそうである。短いレースでは中枢性疲労が優勢である一方、100km以上の長いイベントでは末梢性疲労と筋損傷がより明瞭になる、とされている。中枢性は神経系の出力低下、末梢性は筋そのものの機能低下を指す。

男女で疲労の出方は違うのか

このレビューでは性差は最小限だとされている。ただし根拠は薄い。24研究のうち21研究が男性のみまたは男性中心の対象で、性差を明示的に評価したのは4研究にとどまる。参加者674名のうち女性は168名である。

疲労はどう測られているのか

主に膝伸展筋と足底屈筋のトルク測定によって中枢性疲労と末梢性疲労を評価している。これにテンシオミオグラフィ、軟部組織の振動、筋力テスト、跳躍テストといった代替手法が補完的に用いられた。24研究のうち10研究は、筋損傷・炎症・腎機能に関わる血中バイオマーカーも解析している。

8. 出典

  • Muñoz de la Cruz V, González-Mohíno F, García-Pinillos F, Jaén-Carrillo D. Decoding Neuromuscular Fatigue in Trail Running: A Systematic Review Across Distances and Sex Differences. International Journal of Sports Physiology and Performance, 2026.
  • DOI: https://doi.org/10.1123/ijspp.2025-0544
CITATION Decoding Neuromuscular Fatigue in Trail Running: A Systematic Review Across Distances and Sex Differences(International Journal of Sports Physiology and Performance, 2026) doi:10.1123/ijspp.2025-0544 ↗