食事制限によるエネルギー不足と、運動によるエネルギー不足。同じ「低エネルギー状態」であっても、身体の回復プロセスへの影響は異なるのでしょうか。本研究は、男女の持久力系アスリートを対象に、24時間のエネルギー不足が睡眠や夜間の心拍数に与える影響を検証しました。
1. 何を調べた研究か
アスリートが直面しやすい「低エネルギー利用可能量(LEA:Low Energy Availability)」は、食事からの摂取カロリーが少ない場合と、運動による消費カロリーが多い場合の両方で引き起こされます。
この研究は、食事制限によるLEAと運動によるLEAが、アスリートの睡眠特性や夜間の心拍変動(HRV)にそれぞれどのような影響を及ぼすかを、男女のサイクリスト間で比較調査しました。
2. これまで分かっていたこと
長期的なエネルギー不足が相対的エネルギー不足症候群(REDs)につながり、パフォーマンス低下や健康被害をもたらすことは広く知られています。しかし、短期間(24時間)のエネルギー不足が、日々の回復に直結する「睡眠」や「自律神経の指標(心拍数やHRV)」にどう影響するのか、またその原因が「食事制限」か「運動」かによって違いがあるのかは、十分に解明されていませんでした。
3. どう調べたのか
男女20名(女性10名、男性10名)の持久力系アスリートを対象に、クロスオーバーデザインの無作為化比較試験が行われました。対象者は事前に24時間の標準的な高エネルギー状態(45 kcal/kg 除脂肪体重/日)を過ごした後、以下の5つの異なる24時間条件をランダムな順序(各条件間は8日間の間隔)で実施しました。
- LEA EX: 運動ありの低エネルギー状態(15 kcal/kg)
- LEA REST: 運動なしの低エネルギー状態(15 kcal/kg)
- HEA EX: 運動ありの高エネルギー状態(45 kcal/kg)
- HEA REST: 運動なしの高エネルギー状態(45 kcal/kg)
- GEA: 運動なしの余剰エネルギー状態(75 kcal/kg)
睡眠特性はSomfitデバイスで、夜間の心拍数や心拍変動はOuraリングを用いて測定されました。
4. エネルギー不足の「原因」で睡眠への影響は変わるのか?
実験の結果、エネルギー不足を引き起こす原因によって、睡眠への影響が異なることが明らかになりました。
運動を伴うエネルギー不足(LEA EX)の夜は、運動を行わなかった条件(GEA、HEA REST、LEA REST)と比較して、総睡眠時間が53〜61分延長し、ベッドにいる時間も有意に増加しました(p<0.05)。ただし、睡眠効率自体に違いは見られませんでした(p=0.613)。
一方、運動を行わずに食事制限のみでエネルギー不足を作った場合(LEA REST)は、カロリーが余剰な状態(GEA)と比較して、寝つき(入眠潜時)が8分長くなることが確認されました(p=0.012)。
5. アスリートの疲労管理にどう活かすか?
夜間の平均心拍数については、運動を伴わない日(LEA REST および HEA REST)に最も低下(-4 ± 3 bpm および -2 ± 3 bpm)し、運動を行った日やカロリー余剰の日(0〜+1 bpm)と比較して有意な差がありました。なお、心拍変動(HRV)やその他の主観的・客観的な睡眠指標について、条件間での違いや男女差は認められませんでした。
ハードなトレーニングによるエネルギー不足の日は、身体が回復を求めて自然と睡眠時間を長く確保しようとする傾向があります。一方で、休息日に極端な食事制限を行うと、寝つきが悪くなる可能性があります。回復の質を高めるためには、運動量だけでなく食事の量も適切にコントロールすることが重要です。
6. この研究の限界
本研究は24時間という非常に短期間のエネルギー操作の影響を調べたものであり、数日〜数週間にわたる慢性的なエネルギー不足が睡眠や心拍変動に与える影響は不明です。また、対象者が男女各10名と小規模であるため、結果の解釈には注意が必要です。
7. よくある疑問
エネルギー利用可能量(EA)とは何ですか?
摂取カロリーから運動で消費したカロリーを引いた後、身体の基礎的な生命維持や回復に残されたエネルギー量のことです。通常、除脂肪体重1kgあたりのカロリー(kcal/kg FFM/日)で表されます。
睡眠の質(睡眠効率)に影響はありましたか?
エネルギー状態や運動の有無によって総睡眠時間や入眠潜時には変化が見られましたが、睡眠効率そのものには条件間で有意な違いはありませんでした。
8. 出典
Smith, E. S., Kuikman, M., Rusell, S., Gardiner, C. L., Halson, S. L., Stellingwerff, T., Harris, R., McKay, A. K. A., & Burke, L. M. (2025). Twenty-Four-Hour Low Energy Availability Induced by Diet or Exercise Exhibits Divergent Influences on Sleep and Recovery Indices among Female and Male Cyclists. Medicine & Science in Sports & Exercise. https://doi.org/10.1249/mss.0000000000003783