NUTRITION · 栄養 EV.4 二重盲検無作為化クロスオーバー試験

BCAA補給は持久力運動での脂質酸化と運動効率を高め、疲労を軽減する

若年活動的男性11名を対象に、BCAA(分岐鎖アミノ酸)補給が持久力運動に与える影響を調査した二重盲検無作為化クロスオーバー試験。BCAA摂取により、一定負荷運動中の脂質酸化が促進され、その後の疲労困憊までの運動効率が向上し、運動直後の疲労感が有意に軽減されました。

種目 全体 出典 Nutrients(2025) 公開 2026年8月4日
A focused female cyclist competing on the road, showcasing sports endurance and determination.
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この研究でわかったこと

  1. 01 一定負荷運動中(60%VO2max)の脂質酸化率がBCAA群で有意に上昇した
  2. 02 その後の高強度運動時の糖質酸化率とサイクリング運動効率が改善した
  3. 03 運動直後の主観的疲労感(VASスコア)と血中アンモニア濃度の上昇が有意に抑えられた

若年男性11名を対象にした二重盲検無作為化クロスオーバー試験において、運動前のBCAA(分岐鎖アミノ酸)摂取が持久力運動中のエネルギー代謝と疲労に与える影響が検証されました。その結果、BCAA補給は中等度運動中の脂質酸化を促進し、その後の高強度運動時の運動効率を高め、運動直後の疲労感を軽減することが明らかになりました。

1. 何を調べた研究か

BCAA(分岐鎖アミノ酸:イソロイシン、ロイシン、バリン)は、筋タンパク質合成を促進するサプリメントとして広く利用されています。しかし、持久力運動中のエネルギー基質代謝(脂質と糖質の使われ方)や運動パフォーマンス、運動後の疲労感に対してBCAAがどのような影響を及ぼすのかについては、まだ十分に解明されていませんでした。

本研究は、運動前にBCAAを補給することで、一定負荷の持久力運動から疲労困憊に至るまでの代謝応答と、運動直後の疲労感がどのように変化するかを明らかにすることを目的としています。

2. これまで分かっていたこと

持久力運動のパフォーマンスにおいて、エネルギー代謝は極めて重要です。運動中の主なエネルギー源は糖質(グリコーゲン)と脂質であり、長時間の運動において脂質の酸化(燃焼)を高めることができれば、グリコーゲンの枯渇を遅らせ、疲労を遅延できると考えられています。

BCAAは骨格筋などで直接エネルギー源として利用される特徴があります。これまでの動物実験や一部の研究において、BCAAが脂質代謝を促進したり、中枢性疲労(脳が感じる疲労)を軽減する効果が示唆されていましたが、人間の持久力運動に対する総合的な効果については一貫した見解が得られていませんでした。

3. どう調べたのか

週150分以上の激しい運動を実施している活動的な若年男性11名を対象に、二重盲検クロスオーバー試験を実施しました。

参加者は、運動の3日前からBCAA(体重1kgあたり0.2g)またはプラセボ(同カロリーのでんぷん)を1日2回摂取し、実験当日の朝にも摂取してから30分待機した後に運動テストに臨みました。

運動プロトコルは以下の通りです。

  • 一定負荷運動(CLE):60%VO2maxの強度で自転車エルゴメーターを1時間漕ぐ。
  • 疲労困憊テスト(TTE):続いて80%VO2maxの高強度で、疲労困憊になり継続できなくなるまでの時間を計測。

運動中には呼気ガス分析を行って脂質・糖質の酸化率と運動効率を算出しました。また、主観的運動強度(RPE)や視覚的評価スケール(VAS)による疲労感の評価、採血による血糖値・乳酸値・インスリン・血中アンモニア濃度の測定を行いました。

4. BCAA補給は持久力運動の代謝をどう変えるのか?

実験の結果、BCAAを摂取した群では、前半の一定負荷運動(CLE)の20分後および30分後において、脂質酸化率がプラセボ群に比べて有意に高くなりました

一方で、後半の80%VO2maxでの疲労困憊テスト(TTE)においては、逆に糖質酸化率が有意に増加しました。これは、前半の中等度運動で脂質が多く利用されたことで体内のグリコーゲンが温存され、後半の高強度運動で糖質をより多く利用できるようになった可能性を示唆しています。

また、疲労困憊までの時間(TTE)自体には統計的な有意差(285.66秒 vs 251.79秒、p = 0.126)はなかったものの、TTE中のサイクリング運動効率はBCAA群で有意に向上(18.28% vs 17.45%)していました。

5. 運動直後の疲労感に対する影響は?

運動直後の主観的な筋肉の疲労感を評価するVASスコアは、プラセボ群と比較してBCAA群で有意に低下していました。

また、血液中のアンモニア濃度については、運動によって両群ともに上昇したものの、運動直後の数値はBCAA群の方がプラセボ群よりも有意に低い値を示しました。BCAAは、中枢性疲労の原因となるセロトニンの前駆体(トリプトファン)が脳へ取り込まれるのを競合的に阻害する働きがあると考えられており、これが運動後の疲労感軽減につながったと推測されています。

6. この研究の限界

  • サンプルサイズが11名と小さく、疲労困憊までの時間(TTE)など一部の指標で有意差に届かなかった可能性があります。
  • 対象者が活動的な若年男性のみであり、女性や異なる年齢層、エリートアスリートでの効果は不明です。
  • 筋生検が行われておらず、筋グリコーゲンの実際の変化など、筋肉内の詳細なメカニズムは確認されていません。
  • 数日間の短期的なBCAA補給と単回の運動に対する効果を調べたものであり、長期的な摂取による影響は検証されていません。

7. よくある疑問

運動前のBCAAの摂取量はどれくらいでしたか?

本研究では、体重1kgあたり0.2gのBCAA(ロイシン:イソロイシン:バリン=2:1:1の比率)を摂取しています。体重70kgの人であれば、1回あたり14gに相当します。

BCAAを飲めば運動中の心拍数や主観的なキツさは下がりますか?

本研究の結果では、BCAA群とプラセボ群の間で運動中の心拍数や主観的運動強度(RPE)に有意な差は見られませんでした。BCAAは運動中の生理的応答を劇的に変えるわけではなく、エネルギー代謝の改善や運動後の疲労感軽減に寄与すると考えられます。

8. 出典

Luan, C., Wang, Y., Li, J., Zhou, N., Song, G., Ni, Z., Xu, C., Tang, C., Fu, P., Wang, X., Gong, L., & Zhang, E. (2025). Branched-Chain Amino Acid Supplementation Enhances Substrate Metabolism, Exercise Efficiency and Reduces Post-Exercise Fatigue in Active Young Males. Nutrients.

CITATION Branched-Chain Amino Acid Supplementation Enhances Substrate Metabolism, Exercise Efficiency and Reduces Post-Exercise Fatigue in Active Young Males.(Nutrients, 2025) doi:10.3390/nu17071290 ↗