ケンフェロール(10mg)を単回摂取すると、血中乳酸値を上げることなく中〜高強度の運動中の酸素摂取量を減らし、さらに最大強度での運動持続時間を延ばすことが明らかになりました。
1. 何を調べた研究か
高地の植物に多く含まれるフラボノイドであるケンフェロールが、酸素供給が限られた状況での細胞内エネルギー産生を促進することが過去の研究で示唆されていました。そこで本研究は、よくトレーニングされたアスリートがケンフェロールを摂取した場合、運動中の酸素利用やパフォーマンスにどのような影響を与えるかを検証しました。
2. これまで分かっていたこと
これまでの細胞レベル(筋芽細胞)の研究で、ケンフェロールは低酸素条件下でのミトコンドリア代謝およびATP(エネルギー)産生を大幅に高めることが示されていました。しかし、ヒトが実際に運動する際に、酸素の利用効率や運動能力を向上させるかどうかは確認されていませんでした。
3. どう調べたのか
よくトレーニングされた男子大学アスリート16名(VO2max: 57.5 ± 5.4 mL/kg/min)を対象に、二重盲検ランダム化プラセボ対照クロスオーバー試験を実施しました。 参加者は10mgのケンフェロールまたはプラセボを単回摂取した後、以下の強度の定常負荷運動テストを行いました。
- 最大下運動:25%、50%、75% VO2max
- 最大・超最大運動:100%、125% VO2max
運動中の心肺応答(酸素摂取量など)や、最大・超最大運動での疲労困憊までの時間を測定しました。
4. ケンフェロールは酸素コストを減らすか?
はい、有意に酸素コストを減少させました。 プラセボと比較して、ケンフェロール摂取時は25%、50%、および75%VO2maxでの運動中の酸素摂取量(VO2)と呼吸数が有意に低下しました(p < 0.05)。 重要な点として、この酸素摂取量の低下は、呼吸商(糖質と脂質の燃焼割合の目安)や血中乳酸値の上昇を伴っていませんでした。つまり、無酸素性代謝への依存を強めることなく、より少ない酸素で同じ強度の運動をこなせたこと(酸素コストの低下)を意味します。
また、100%VO2maxという最大強度の運動においては、疲労困憊までの時間(運動持続時間)がプラセボと比較して有意に延長しました(p < 0.05)。
5. トレーニングやレースにどう活かせるか?
少ない酸素で同じ出力を維持できる(酸素コストの改善)ことは、持久系スポーツであるトライアスロンにおいて大きなアドバンテージとなります。 特に、75%VO2maxといったレースペースに近い強度で酸素摂取量が抑えられるため、マラソン後半やロングのバイク・ランにおけるエネルギーの節約に繋がる可能性があります。また、100%VO2max強度の持続時間が延びることから、スプリント勝負やヒルクライムのような高強度エフォート時のパフォーマンスアップも期待できます。
ただし、本研究は10mgの単回摂取(急性効果)を検証したものであり、長期的な摂取による適応や、実際のレース環境(長時間の複合競技)での効果については今後の研究が待たれます。
6. この研究の限界
- 対象者が男子大学アスリート(16名)に限定されており、女性や中高年層、一般レベルの愛好家でも同様の効果が得られるかは不明です。
- 一定負荷テストでの結果であり、実際のレース環境でのパフォーマンス向上を直接証明するものではありません。
- 抄録からの情報に限られており、摂取タイミングの具体的な時間(運動の何分前か)や、125%VO2maxでの結果の詳細は不明です。
7. よくある疑問
ケンフェロールとは何ですか?
高地で育つ植物などに多く含まれるフラボノイドの一種で、細胞のミトコンドリアでのエネルギー(ATP)産生を促進する働きがあるとされています。
どのタイミングでどのくらい摂取したのですか?
本研究では、運動前に10mgのケンフェロールを1回(単回)摂取して効果を検証しています。
8. 出典
Okita, K., Mizokami, T., Yasuda, O., & Ikeda, Y. (2025). Acute kaempferol ingestion lowers oxygen uptake during submaximal exercise and improves high‐intensity exercise capacity in well‐trained male athletes. Physiological Reports. https://doi.org/10.14814/phy2.70369