BIOMECHANICS · バイオメカニクス EV.4 ランダム化クロスオーバー試験

ケトンサプリではなく、厚底カーボンシューズがランナーの経済性を向上させる

ケトンモノエステルと先進的なフットウェアテクノロジー(厚底カーボンシューズ)が、ランニングエコノミーや疲労困憊までの時間に与える影響を検証。結果、シューズはエコノミーとパフォーマンスを改善しましたが、ケトンの効果は認められませんでした。

種目 ラン 出典 Medicine & Science in Sports & Exercise(2025) 公開 2026年8月4日
Full body of focused man in sportswear running fast on track during competition
Photo by RUN 4 FFWPU on Pexels

この研究でわかったこと

  1. 01 ナイキ ヴェイパーフライ 3は、ペガサス ターボに比べてランニングエコノミーを有意に改善した。
  2. 02 ケトンモノエステルの摂取は、炭水化物摂取と比較してランニングエコノミーを改善しなかった。
  3. 03 疲労困憊までの時間(持久力)は、ヴェイパーフライ+炭水化物条件が最も長かった。

中長距離ランナーにおいて、先進的なフットウェア(厚底カーボンシューズ)はランニングエコノミーと持久力パフォーマンスを有意に向上させましたが、注目されるケトンサプリメント(ケトンモノエステル)の急性摂取にはそのような効果が見られませんでした。

1. どのような組み合わせの効果を調べたのか

近年、マラソンや長距離走のパフォーマンスを劇的に向上させる要素として、「先進的なフットウェアテクノロジー(AFT:いわゆる厚底カーボンシューズ)」と、「ケトンモノエステル(KME)などの新しいサプリメント」が注目されています。

本研究は、これら2つの要素がランニングエコノミー(RE)や疲労困憊までの時間に与える「個別の効果」と「複合的な効果」を、中長距離ランナー18名(男性10名、女性8名)を対象に検証しました。

2. これまで分かっていたこと

厚底カーボンシューズ(ナイキ ヴェイパーフライなど)がランニングエコノミーを数%改善することは、これまでの多くの研究で実証されています。一方で、ケトンモノエステルは「第4のエネルギー源」として持久力スポーツで期待を集めていますが、その効果については肯定的な結果と否定的な結果が混在しており、明確な結論が出ていませんでした。また、これら2つを組み合わせた場合の効果については未知数でした。

3. どう調べたのか

参加者は以下の4つの条件で、トレッドミルでのテストをランダムな順序で行いました(ランダム化クロスオーバー試験)。

  • シューズ:Nike Pegasus Turbo(PEG) または Nike ZoomX Vaporfly Next% 3(VAP)
  • サプリメント:炭水化物溶液(CHO) または ケトンモノエステル(KME)

4つの条件:

  1. PEG + CHO
  2. PEG + KME
  3. VAP + CHO
  4. VAP + KME

テストプロトコルは、8分間の最大下ランニングを5ステージ(速度を段階的に上げる。男性10-14 km/h、女性9-13 km/h)行い、その直後に自発的疲労に至るまでのランプテストを実施しました。 サプリメントは、運動20分前に摂取(CHO 500mL、またはKME 体重1kgあたり500mg)し、運動中にも追加摂取されました。

4. 厚底シューズとケトンサプリ、どちらが有効だったのか?

結論として、ランニングエコノミーと持久力を向上させたのはシューズのみでした。

  • ランニングエコノミー(RE)の改善: VAP(ヴェイパーフライ)を着用した条件では、PEG(ペガサスターボ)着用時と比較して、第3および第4ステージでREが有意に改善しました(効果量 ES = 0.53〜0.84)。サプリメントの違い(CHO vs KME)によるREの差はありませんでした。
  • 疲労困憊までの時間: VAP + CHO条件(381 ± 125秒)が最も長く、PEG + CHO条件(356 ± 140秒、P = 0.023)、PEG + KME条件(329 ± 131秒、P < 0.001)よりも有意に優れていました。
条件疲労困憊までの時間(秒)
VAP + CHO381 ± 125
VAP + KME375 ± 125
PEG + CHO356 ± 140
PEG + KME329 ± 131

興味深いことに、ペガサスターボ着用時にケトンを摂取した条件(PEG + KME)は、炭水化物(PEG + CHO)よりも疲労困憊までの時間が短くなる傾向が見られました。

5. レースや練習への応用:ケトンサプリは導入すべきか?

この研究結果は、ランナーやトライアスリートの装備・補給戦略に対して明確なメッセージを出しています。

機材への投資(厚底カーボンシューズ)は、間違いなくパフォーマンス上のリターンをもたらします。一方、高価なケトンモノエステルについては、少なくとも今回の「レース直前や最中の急性摂取」という方法においては、炭水化物ドリンクを上回るメリットは確認されませんでした。まずは確実なエネルギー源である炭水化物の補給戦略を最適化し、実績のあるシューズを選ぶことが、記録向上の近道と言えます。

6. この研究の限界

本研究はトレッドミル上での最大下テストおよびランプテストであり、実際のロードレース(フルマラソン等)の環境や長時間の持続的な疲労状態を完全に再現しているわけではありません。ケトンサプリメントに関しても、日常的な継続摂取やリカバリー目的での効果については、さらなる検証が必要です。

7. よくある疑問

どのようなシューズとサプリメントが比較されましたか?

シューズはナイキのズームX ヴェイパーフライ ネクスト% 3とペガサス ターボ、サプリメントはケトンモノエステルと炭水化物溶液が比較されました。

ケトンサプリメントは持久力アップに効果的でしたか?

いいえ、本研究ではケトンモノエステルの摂取によるランニングエコノミーやパフォーマンス(疲労困憊までの時間)の向上は認められませんでした。

8. 出典

Brady, A. J., Moynagh, M. B., Devenney, S., & Egan, B. (2025). Advanced Footwear Technology, But Not Acute Ingestion of a Ketone Monoester, Improves Running Economy. Medicine & Science in Sports & Exercise. https://doi.org/10.1249/mss.0000000000003682

CITATION Advanced Footwear Technology, But Not Acute Ingestion of a Ketone Monoester, Improves Running Economy(Medicine & Science in Sports & Exercise, 2025) doi:10.1249/mss.0000000000003682 ↗