BIOMECHANICS · バイオメカニクス EV.4 無作為化比較試験

長距離スパイクの選択:カーボンプレートは本当にランニングエコノミーを高めるのか?

長距離ランナーを対象に、フォームのみのスパイク(Dragonfly)とカーボン搭載スパイク(Victory)のランニングエコノミーや主観的快適性を比較した無作為化比較試験。

種目 ラン 出典 Frontiers in Physiology(2025) 公開 2026年8月4日
Close-up shot of a runner's legs wearing bright orange shoes and black socks.
Photo by Willians Huerta on Pexels

この研究でわかったこと

  1. 01 国内レベルの選手では、フォームのみのスパイクがカーボン搭載モデルよりもランニングエコノミーを改善した
  2. 02 トレーニング層の選手では、スパイク間でランニングエコノミーに差は見られなかった
  3. 03 どちらの層でも、フォームのみのスパイクの方が「快適でクッション性が高い」と評価された

カーボンプレート搭載の陸上スパイクは広く普及しているが、フォームのみのスパイクと比較して本当に優れた恩恵をもたらすのだろうか。本研究は、国内レベルおよびトレーニング層の長距離ランナーにおいて、フォームのみのスパイク(Nike ZoomX Dragonfly)とカーボン搭載スパイク(Nike Air Zoom Victory)を比較し、国内レベルの選手ではフォームのみのモデルの方がランニングエコノミーに優れ、快適性も高く評価されることを明らかにした。

1. 何を調べた研究か

近年普及している先進的なフットウェアテクノロジー(AFT)スパイクにおいて、カーボンファイバープレートの有無がランニングエコノミー(RE)、生体力学的パラメータ、および主観的な快適性にどのような違いをもたらすかを検証した研究である。

2. これまで分かっていたこと

AFT搭載のシューズは、従来のシューズと比較してランニングエコノミーやパフォーマンスを向上させることが知られており、その技術はロード用からトラック用スパイクにも応用されている。しかし、トラック競技(1,500m〜10,000m)において、カーボンプレートを搭載したモデルが、反発性の高いフォームのみを使用したモデルよりもさらに代謝面での優位性を持つのかどうかは、明確になっていなかった。

3. どう調べたのか

13名の男子中長距離ランナーを、競技レベルに応じて「国内レベル」(7名)と「トレーニング層」(6名)に分類した。 屋外トラックにて、以下の3つのAFTスパイクを履き、ランダムな順序で1,600mの最大下走行テストを3回実施した。

  • Nike ZoomX Dragonfly (フォームのみ、2バージョン)
  • Nike Air Zoom Victory (フォーム+カーボンプレート)

走行速度は、国内レベルが時速18km、トレーニング層が時速16kmに設定された。携帯型の呼気ガス分析装置を用いてランニングエコノミーを評価し、シューズに装着したセンサーで歩幅や接地時間などの変数を測定した。また、10段階のスケールで快適性やクッション性を主観的に評価した。

4. カーボンプレートは本当にランニングエコノミーを高めるのか?

研究の結果、競技レベルによってスパイクへの反応が異なることが明らかになった。

国内レベルのグループでは、フォームのみのスパイク(Dragonfly)を着用した方が、カーボンプレート搭載モデル(Victory)よりもランニングエコノミーが優れていた。一方、トレーニング層のグループでは、スパイク間でランニングエコノミーに有意な差は見られなかった。 歩幅やピッチ(歩数)については、どちらのグループでもスパイクによる変化はなかったが、国内レベルのグループにおいてのみ、特定のフォームのみのスパイクで接地時間が長くなる傾向が見られた。

これらの結果から、カーボンプレートを追加しても必ずしも代謝上の利点(エネルギー消費の節約)が得られるわけではないことが示唆された。

5. スパイク選びで優先すべき基準は?

主観的な評価において、競技レベルに関わらず全参加者が「フォームのみのスパイクの方が快適でクッション性が高い」と回答した。一方で、パフォーマンスが向上しているという「感覚」については、モデル間で差はなかった。

シューズの剛性(硬さ)がランナー個人の最適なレベルを超えると、かえってエネルギーコストを増加させる可能性がある。トラック競技におけるスパイク選びでは、「カーボンが入っているから速い」という思い込みを捨て、出場する距離や自身の走行速度、さらには自分自身の生体力学的な特性(走り方)に合ったシューズの剛性や形状を個別に選択することが重要である。

6. この研究の限界

  • サンプルサイズが13名と小規模であり、男性ランナーのみを対象としている。
  • 1,600mという特定の距離および特定の速度での最大下テストであるため、異なるペースやスプリントなどでの影響は不明である。
  • 特定のメーカー(Nike)のモデルに限定した比較であり、他ブランドのAFTスパイクにも同様の傾向が当てはまるかは検証されていない。

7. よくある疑問

カーボンプレート搭載スパイクは常に優れていますか?

必ずしもそうではありません。本研究では、国内レベルのランナーにおいてフォームのみのスパイクの方がランニングエコノミーが優れており、カーボンプレートが常に代謝上の利点をもたらすわけではないことが示されました。

スパイクの違いで歩幅やピッチは変わりましたか?

歩幅(ストライド)と歩数(ピッチ)については、どちらのグループでもスパイク間での変化は見られませんでした。

8. 出典

Wu Y, Zhang H, Wang S, Lu C, Xing Q, Tian Y, He D, Sun L, Shen Y. (2025). Comparative analysis of foam-only versus carbon-plated advanced footwear technology spikes in distance runners. Frontiers in Physiology. DOI: 10.3389/fphys.2025.1703854.

CITATION Comparative analysis of foam-only versus carbon-plated advanced footwear technology spikes in distance runners(Frontiers in Physiology, 2025) doi:10.3389/fphys.2025.1703854 ↗