NUTRITION · 栄養 EV.5 メタ分析

スイムではカフェインの効果が出なかった。25m・50mタイムも血中乳酸も動かなかった

スイマーへの急性カフェイン摂取の効果を10件の無作為化クロスオーバー試験121名で統合したメタ分析。25mタイム(SMD -0.14)、50mタイム(-0.06)、泳速度、跳躍高、パワーのいずれにも有意な改善はなく、血中乳酸と血中pHにも有意な効果はなかった。著者らは所見を予備的なものと位置づけている。

種目 スイム 出典 Frontiers in Physiology(2025) 読了 約5分 公開 2026年8月3日
Dynamic shot of a synchronized swimmer performing an artistic leg move in a pool.
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この研究でわかったこと

  1. 01 25mタイム(SMD = -0.14、p = 0.73)、50mタイム(SMD = -0.06、p = 0.78)、泳速度(SMD = 0.47、p = 0.70)、跳躍高(SMD = 0.12、p = 0.78)、パワー(SMD = 0.05、p = 0.90)のいずれにも有意な改善はなかった。
  2. 02 生理学的な指標でも、血中乳酸(SMD = 0.81、p = 0.07)と血中pH(SMD = 0.01、p = 0.99)に有意な効果は観察されなかった。
  3. 03 著者らは、組み入れ研究の数と標本が小さく異質性も存在することから、所見は予備的なものとみなすべきだとしている。

急性のカフェイン摂取は、スイマーのパフォーマンスを有意に改善しなかった。10件の無作為化クロスオーバー試験121名を統合したメタ分析では、25mタイムも50mタイムも泳速度も、血中乳酸も血中pHも動いていない。ただし著者らは、研究数と標本の小ささから所見を予備的なものと位置づけている。


用語について。 「急性(acute)摂取」は、レースや測定の直前に一度だけ摂る形式を指す。数日にわたる継続摂取とは区別される。この解析は物理的なアウトカム(タイム、泳速度、跳躍高、パワー)と生理学的なアウトカム(血中乳酸、血中pH)を別々に扱っている。

1. 何を調べた研究か

急性のカフェイン摂取が、スイマーの物理的および生理学的なパフォーマンスに与える効果を評価すること。それが著者らの目的である。

問いの立て方が明快なのは、陸上種目での知見が確立しているためである。同じことが水中でも成り立つのか、という検証になっている。

2. これまで分かっていたこと

急性のカフェイン摂取がアスリートに広く使われ、そのエルゴジェニック効果がいくつかの陸上競技で確立していることは前提に置かれている。

不明だったのは水泳への適用である。同様の利点が泳ぎにも当てはまるかは明らかでない、というのが出発点だった。

3. どう調べたのか

PRISMAガイドラインに沿って、Cochrane Library、Web of Science、Embase、PubMed、SPORTDiscusの五つのデータベースから研究を集めた。

適格条件は、スイマーにおける急性カフェインの効果を、物理的アウトカム(25mタイム、50mタイム、泳速度、跳躍高、パワー)または生理学的アウトカム(血中乳酸、血中pH)で評価した試験である。

統合には変量効果モデルを用い、標準化平均差と95%信頼区間を算出した。アウトカム指標の種類にもとづくサブグループ解析も行っている。最終的に10件の無作為化クロスオーバー試験、参加者121名が組み入れられた。

4. どのアウトカムも動かなかったのか

七つすべてで有意差が出なかった。

アウトカム効果量(SMD)95%信頼区間p値
25mタイム-0.14-0.91 〜 0.630.73
50mタイム-0.06-0.50 〜 0.370.78
泳速度0.47-1.97 〜 2.920.70
跳躍高0.12-0.72 〜 0.960.78
パワー0.05-0.78 〜 0.890.90
血中乳酸0.81-0.07 〜 1.700.07
血中pH0.01-1.86 〜 1.880.99

信頼区間の広さがこの表の読みどころである。泳速度は -1.97〜2.92、血中pHは -1.86〜1.88と、どちらも実質的に何も言えていない幅になっている。標本の小ささがそのまま表れている。

比較的締まっているのが50mタイム(-0.50〜0.37)で、ここは効果があったとしても小さいことを示唆する。

血中乳酸だけは効果量が0.81と大きめで、p = 0.07と有意水準の手前にある。信頼区間の下端が -0.07とゼロをわずかに割り込む位置にあり、カフェイン側で高い可能性を示すにとどまる。

著者らの結論は、急性のカフェイン補給が水泳パフォーマンスを物理的にも生理学的にも改善するという有意な証拠は見つからなかった、というものである。そのうえで、組み入れられた研究の数と標本の小ささ、異質性の存在から、所見は予備的なものとみなすべきだとしている。

5. スイムでカフェインを使うべきか

この論文は「使うな」とは言っていない。「効くという証拠がまだない」と言っている。

区別が重要なのは、信頼区間の広さのためである。泳速度の区間が -1.97〜2.92であるということは、大きな利益も大きな不利益も否定できていないという意味になる。効果の不在が示されたのではなく、判断できる精度に達していない。

トライアスロンの文脈では、この結果はカフェイン戦略の組み立て方に影響する。レース全体でカフェインを使う根拠は陸上種目の知見に支えられているが、スイムパートでの上乗せをこの解析は支持しない。スタート前のカフェインをスイムのために摂る、という理屈は現時点で根拠が薄い。

一方、対象になっているのは25mや50mという短距離である。トライアスロンのスイムはこれよりはるかに長く、求められる能力の性質が異なる。持久的なスイムでの効果は、この論文の射程の外にある。

血中乳酸の傾向についても、実務的な意味づけは難しい。乳酸が高いこと自体は良くも悪くもなく、タイムが変わっていない以上、そこから何かを導くことはできない。

6. この研究の限界

著者ら自身が挙げているのは研究数と標本の小ささ、そして異質性である。10件121名という規模で七つのアウトカムを扱っており、各アウトカムに寄与した研究数は抄録に示されていない。

信頼区間の広さはその帰結である。泳速度と血中pHについては、統合の結果から何かを結論することができない。

対象集団の情報もない。121名の競技レベル、性別、年齢の分布は記載されていない。カフェインの反応には個人差が大きく、習慣的な摂取量も効き方を左右しうるが、それらの調整は行われていない。

用量とタイミングも示されていない。何mgをレースの何分前に摂ったのかという条件が分からないため、効果が出なかった理由をプロトコルの側から検討できない。

そして距離が短い。25mと50mという設定は、持久系の水泳とは異なる能力を測っている。

7. よくある疑問

スイムでカフェインは効かないということか

「効かないと確認された」ではなく「効くという証拠が得られなかった」である。著者らも、組み入れられた研究の数と標本の小ささ、異質性の存在を理由に、所見を予備的なものとみなすべきだとしている。泳速度の信頼区間は -1.97〜2.92と極端に広く、判断できる精度に達していない。

陸上の種目では効くのに、なぜ泳ぎでは出ないのか

この論文はその理由を説明していない。抄録が述べているのは、急性カフェイン摂取のエルゴジェニック効果がいくつかの陸上競技では確立している一方、同様の利点が水泳にも当てはまるかは不明確だ、という問題設定までである。

血中乳酸が上がる傾向はどう読めばいいのか

血中乳酸のSMDは0.81(95%信頼区間 -0.07〜1.70、p = 0.07)で、効果量としては小さくないが有意水準には届いていない。信頼区間の下端がゼロをわずかに割り込んでおり、方向としてはカフェイン側で高い可能性を示すにとどまる。

8. 出典

  • Huang D, Huang B, Wang Z, Takagi H, Chen Y, Huang Z, Wang X, Tong X. Does caffeine intake enhance physical and physiological performance in swimmers? a systematic review and meta-analysis. Frontiers in Physiology, 2025.
  • DOI: https://doi.org/10.3389/fphys.2025.1648862
CITATION Does caffeine intake enhance physical and physiological performance in swimmers? a systematic review and meta-analysis(Frontiers in Physiology, 2025) doi:10.3389/fphys.2025.1648862 ↗