RED-Sは女性アスリートだけの問題ではない。男性アスリートを対象にした7研究のシステマティックレビューでは、RED-Sリスクの有病率が51〜72%と報告され、とくに持久系アスリートで高かった。一方で診断には課題が残る。女性から導かれた閾値を男性に適用できるのか、複数の研究が疑問を呈している。
用語について。 「RED-S(Relative Energy Deficiency in Sport)」は、運動によるエネルギー消費に対して摂取が追いつかない状態が続くことで、骨・内分泌・代謝・心理・パフォーマンスに広く影響が及ぶ症候群を指す。「LEA(低エネルギー利用可能量)」はその根底にある状態である。「運動依存(exercise dependence)」は運動を制御できず過剰に続けてしまう状態を指す。
1. 何を調べた研究か
男性アスリートに特化して、RED-Sの現れ方、リスク因子、健康上の帰結について現時点の証拠を統合すること。それが著者らの目的である。
タイトルは文献レビューとなっているが、抄録の記述はPRISMAガイドラインに沿った系統的な検索にもとづくシステマティックレビューである。
2. これまで分かっていたこと
RED-Sは女性アスリートにおいて確立された状態である。診断の枠組みも、女性を対象とした研究の蓄積の上に築かれてきた。
一方、男性アスリートにおける有病率と帰結は依然として十分に認識されていない、というのが著者らの問題設定である。男性の低エネルギー利用可能量が骨の健康の悪化、内分泌の機能不全、運動依存のような心理的な障害を含む有害な健康・パフォーマンス上の帰結をもたらすという証拠は増えている。早期の特定と長期的な合併症の予防のためには、男性のRED-Sへの認識を高めることが不可欠だ、とされている。
3. どう調べたのか
PRISMAガイドラインに沿って、PubMed、Scopus、Cochrane、MEDLINE、EMBASEを検索した。検索語には相対的エネルギー不足、骨密度、運動依存、男性アスリートが含まれ、ブール演算子で組み合わされている。
フィルタとして、直近5年以内に公表された無料の全文論文が対象とされた。合計22件が特定され、そのうち15件が全文で入手可能だった。最終的に組み入れ基準を満たしたのは7研究で、いずれも低エネルギー利用可能量のある男性アスリートを対象に、骨の健康、内分泌機能、競技パフォーマンス、または心理的リスク因子に関するアウトカムを報告している。
4. 何が分かったのか
有病率の高さと、影響の広さの二つが所見の中心である。
| 領域 | 所見 |
|---|---|
| 有病率 | RED-Sリスクは51〜72%。とくに持久系アスリートで顕著 |
| 骨 | 低エネルギー利用可能量が骨密度の低下と一貫して関連 |
| 内分泌 | 内分泌指標の変化と関連 |
| パフォーマンス | 競技パフォーマンスの低下と関連 |
| 心理 | 運動依存が有意な寄与因子として浮上 |
| 診断 | 女性由来の診断閾値の適用可能性に複数の研究が疑問を呈する |
51〜72%という有病率の幅は大きいが、下限でも半数を超えている。持久系アスリートで顕著だという記述は、トライアスロンの読者にとって直接的に関わる部分である。
運動依存が心理的な寄与因子として挙がっている点も見逃せない。摂取が足りないという栄養の問題としてだけでなく、消費を抑えられないという行動の問題としても捉えられている。
そして診断の課題である。複数の研究が、女性から導かれた診断閾値を男性アスリートのRED-Sの特定に用いることの妥当性に疑問を呈した。著者らの結論も、現行の診断枠組みが男性特有の生理的特性を組み込むよう修正される必要がある、というものである。
5. 持久系の男性選手は何に気をつけるべきか
まず、自分が対象外だと考えないことである。
RED-Sは女性の問題として語られてきた経緯があり、男性の競技者は自分と無関係だと考えやすい。しかしこのレビューが示した有病率は51〜72%で、しかも持久系アスリートでとくに高い。トライアスロンのように消費量が大きく、体重が成績に効くと考えられがちな種目は、構造的にリスクが高い側にある。
次に、指標の置き方である。骨密度、内分泌指標、パフォーマンスの三つが一貫して関連していた。体重や体脂肪率だけを見ていると、これらの変化は捉えられない。パフォーマンスの伸び悩みが「練習不足」ではなくエネルギー不足の結果である可能性は、頭に入れておく価値がある。
運動依存という視点も実務的である。練習を減らすことに強い抵抗を感じる、休むと不安になる——そうした行動面の兆候が、栄養状態の問題と結びついている可能性がある。
一方で、この論文は診断や治療の手順を示していない。むしろ現行の診断枠組みが男性には適さないかもしれない、という問題提起で終わっている。心当たりがある場合に自己判断で結論を出すのではなく、医療者に相談する材料として使うのが妥当である。
なおRED-Sの管理については、非薬理学的な対応(栄養リハビリテーション、トレーニング負荷の調整、教育)を初期対応とすることを支持する別のレビューがある。ただしそちらの所見は主として女性アスリートに当てはまるものとされている。
6. この研究の限界
まず規模である。7研究という数で、有病率から骨・内分泌・パフォーマンス・心理までを扱っている。各領域を支える研究数は抄録から追えない。
検索の制約も大きい。フィルタとして「直近5年以内」かつ「無料の全文論文」が適用されている。無料で読めるかどうかで組み入れを絞ると、系統的な網羅性は損なわれる。22件が特定されて全文が入手できたのが15件、という数字もその制約を示している。
有病率の幅も広い。51〜72%という範囲は、対象集団や判定方法の違いを反映していると考えられるが、その内訳は示されていない。
効果量も示されていない。「一貫して関連していた」という記述にとどまり、関連の強さを確かめられない。
そして参加者の情報がない。7研究に含まれた男性アスリートの総数、競技種目、年齢の分布はいずれも記載されていない。
7. よくある疑問
RED-Sは女性だけの問題ではないのか
そうではない。RED-Sは女性アスリートでは確立された状態である一方、男性アスリートにおける有病率と帰結は依然として十分に認識されていない、というのがこのレビューの出発点である。実際、組み入れられた研究ではRED-Sリスクの有病率が51〜72%と報告されている。
どんな影響が出るのか
低エネルギー利用可能量は、骨密度の低下、内分泌指標の変化、競技パフォーマンスの低下と一貫して関連していた。加えて運動依存が有意な心理的寄与因子として挙げられている。骨の健康、ホルモン、パフォーマンス、心理の四つにまたがる問題である。
既存の診断基準を男性に使えるのか
複数の研究がその妥当性に疑問を呈している。女性から導かれた診断閾値を男性アスリートのRED-S特定に適用できるかが争点で、著者らは現行の診断枠組みが男性特有の生理的特性を組み込むよう修正される必要があると結論づけている。
8. 出典
- Gupta A, Saha J. Identification Method of Relative Energy Deficiency in Sport (RED-S) in Male Athletes: A Literature Review. Journal of Clinical and Diagnostic Research, 2026.
- DOI: https://doi.org/10.7860/jcdr/2026/90232.23794