スポーツにおける相対的エネルギー不足(RED-S)に対しては、まず非薬理学的な対応から入る。19研究を統合したシステマティックレビューとメタ分析の結論である。栄養と負荷調整による介入は月経機能の回復やエネルギー利用可能量、体組成に利益を示し、薬理学的な介入はバイオマーカーで良好な結果を示した。
用語について。 「RED-S(Relative Energy Deficiency in Sport)」は、運動によるエネルギー消費に対して摂取が追いつかない状態が続くことで、内分泌・骨・代謝・パフォーマンスなど広範に影響が及ぶ症候群を指す。「LEA(低エネルギー利用可能量)」はその根底にある状態である。この論文はプレプリントであり、査読を経ていない。
1. 何を調べた研究か
薬理学的および非薬理学的な介入が、RED-Sにどのような影響を与えるかを評価すること。それが著者らの目的である。
治療選択肢を比較した質の高い無作為化比較試験がほとんどない領域で、現時点の証拠がどちらを支持するのかを整理する試みになっている。
2. これまで分かっていたこと
RED-Sの管理では非薬理学的なアプローチ、主として栄養リハビリテーション、トレーニング負荷の調整、そしてLEAに対処するための教育が優先されてきた。薬理学的な治療は持続的または重度の症例に留保される、という位置づけである。
問題は根拠の薄さだった。エビデンスは限られており、治療選択肢を比較した質の高い無作為化比較試験はほとんどない、と著者らも記している。
3. どう調べたのか
CINAHL、MEDLINE、SportDiscus、ERIC、Embaseを各データベースの開設時から2025年まで検索した。
適格基準は、RED-Sの症状を支援するために設計された介入を検討した実験的・準実験的・前実験的な文献である。
組み入れられたのは19研究で、内訳は非薬理学的介入が15件、薬理学的介入が4件だった。エビデンスの確実性はGRADEで評価されている。
4. どちらの介入が何に効いたのか
効く領域が分かれている。
| 介入 | 効果が示された領域 | 効果量 | GRADEの確信度 |
|---|---|---|---|
| 非薬理学的 | 月経機能の回復、エネルギー利用可能量 | 中程度から高い | 低い |
| 非薬理学的 | 体組成(脂肪量、体脂肪率) | 中程度から非常に高い | 中程度 |
| 非薬理学的 | ホルモン変化・バイオマーカー | 中程度から高い | 低い |
| 薬理学的 | 骨密度マーカー、ホルモンプロファイル | 中程度 | 中程度 |
| 薬理学的 | 骨代謝マーカーの臨床的に意味のある変化 | — | 低い |
非薬理学的介入は、月経機能の回復、エネルギー利用可能量、脂肪量、体脂肪率に良好な利益を示した。ただし研究の質による制約があると明記されている。
効果量と確信度が食い違う点がこの表の読みどころである。月経機能の回復では中程度から高い効果量が出ているのに、GRADEの確信度は低い。逆に体組成では効果量も確信度も相対的に高い。数字が大きいことと、その数字が信頼できることは別だという構図になっている。
薬理学的介入はバイオマーカーで良好な結果を示した。骨密度マーカーとホルモンプロファイルについては中程度の効果量が中程度の確信度で支持されている。一方、骨代謝マーカーの変化が臨床的に意味を持つかについては確信度が低い。
著者らの結論は、現在のエビデンスがRED-Sの管理における初期対応として非薬理学的なアプローチを支持する、というものである。そのうえで、薬理学的な初期対応は特定の状況では適切に見える、としている。
5. 自分に当てはめるとき何に注意するか
まず対象の限定を押さえておきたい。所見は主として長距離・持久系種目に取り組む女性アスリートの集団に当てはまる、と抄録が明記している。研究の多くは大学の環境で実施されており、最も多い介入は食事の適応で、その80%が管理栄養士または栄養の専門家によって提供された。
この最後の点は実務的に重要である。効果が示された介入は、専門家が関与した栄養指導が中心だった。自己流で摂取量を増やすことと、専門家の設計にもとづく栄養リハビリテーションを同じものとして扱うことはできない。
順序についてはこのレビューが明快である。非薬理学的な対応が先で、薬理学的な対応は特定の状況に限られる。トレーニング量が多く、体重や体組成に意識が向きがちな持久系種目では、まず摂取と負荷のバランスを見直す、という順番になる。
一方、この論文は診断や重症度の判定については扱っていない。RED-Sが疑われる状況で何をどう評価するかは別の問題であり、医療者の関与が前提になる。
そして著者ら自身が、標準化された定義とコアアウトカムの開発・採用が緊急に必要だと述べている。研究間で「何を測ったか」が揃っていない領域である以上、個別の数値を絶対視しないほうがよい。
6. この研究の限界
まず査読を経ていない。medRxivに投稿されたプレプリントであり、査読の過程で内容が変わる可能性がある。
非薬理学的介入は質による制約があると明記されている。効果量が大きく出ているアウトカムでもGRADEの確信度が低いのは、この制約の反映である。
薬理学的介入の研究数も少ない。19研究のうち4件にとどまり、そこから治療選択の指針を導くには薄い。
対象の偏りも大きい。長距離・持久系の女性アスリートが中心で、大学の環境で実施された研究が多い。男性アスリート、他の種目、他の年齢層への一般化はできない。
そして定義の不統一が残る。著者らが標準化された定義とコアアウトカムの必要性を緊急のものとして挙げている以上、研究間の比較可能性そのものに限界がある。
7. よくある疑問
RED-Sが疑われたらまず何をすべきか
このレビューの結論は、現在のエビデンスが初期対応として非薬理学的な管理を支持する、というものである。具体的には栄養リハビリテーション、トレーニング負荷の調整、低エネルギー利用可能量に対処するための教育が中心になる。薬理学的な初期対応が適切に見えるのは特定の状況に限られるとされている。
効果はどれくらい確からしいのか
アウトカムによって確信度が違う。月経機能の回復とエネルギー利用可能量では中程度から高い効果量が示されたが、GRADEの評価では確信度が低い。体組成(脂肪量、体脂肪率)については中程度から非常に高い効果量が中程度の確信度で支持されている。
この結果は男性アスリートにも当てはまるのか
抄録は、所見が主として長距離・持久系種目に取り組む女性アスリートの集団に当てはまると明記している。研究の多くは大学の環境で実施され、最も多い介入は食事の適応で、その80%が管理栄養士または栄養の専門家によって提供された。男性への一般化はこの範囲からは支持されない。
8. 出典
- Wood A, Soundy A. Pharmacological vs non-pharmacological treatment in the management of Relative Energy Deficiency in Sport (RED-S): A systematic review and meta-analysis. medRxiv, 2025.
- DOI: https://doi.org/10.1101/2025.07.18.25331767