単回の重曹摂取は、連続走のパフォーマンスをほぼ動かさなかった。11研究126名の二重盲検プラセボ対照試験を統合し、胃腸症状による脱落と出版バイアスを調整したメタ分析の結論である。一方で胃腸症状は重曹で明らかに多く、効果が有意になったのは男性のみを組み入れた研究に限られた。
用語について。 「連続走(continuous running)」は、断続的なスプリントではなく一定の走行を続けるテストを指す。この論文はSMDの大きさを自ら定義しており、0.00〜0.19をごくわずか、0.20〜0.49を小、0.50〜0.79を中、0.80以上を大としている。以下の解釈はこの基準に沿う。
1. 何を調べた研究か
単回経口の重炭酸ナトリウム補給が、連続走のパフォーマンスに与える効果を系統的に評価すること。それが著者らの目的である。
副次アウトカムに胃腸症状と、胃腸に関連した研究からの脱落率を置いている点がこの解析の特徴である。効果だけでなく、実際に飲み続けられるかまでを評価の対象にしている。
2. これまで分かっていたこと
重曹が細胞外の緩衝能を高めることで、短時間・高強度の運動パフォーマンスを改善しうることは知られていた。
しかし連続走のパフォーマンスへの効果は系統的に評価されていなかった、というのが著者らの出発点である。短く強い運動で効くことが、走り続ける種目でも成り立つとは限らない。
3. どう調べたのか
Medline、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trialsを検索し、2024年末までに公表された適格な試験を集めた。組み入れたのは無作為化・二重盲検・プラセボ対照の試験である。
主要アウトカムは連続走テストのパフォーマンス。統合には変量効果メタ分析を用い、胃腸に関連した脱落についてはintent-to-treat法で調整し、出版バイアスにはtrim-and-fill法を適用している。効果の大きさに関連する要因は単変量メタ回帰で検討し、エビデンスの確実性はGRADEで評価された。
組み入れられたのは11研究、参加者126名で、すべてクロスオーバーデザインだった。被験者の84%は男性、重曹の用量は多くが0.3 g/kg、パフォーマンステストの時間は1〜30分(中央値4分)である。
4. 重曹は連続走に効くのか
調整後の効果はごくわずかで、有意ではなかった。
| アウトカム | 結果 | 確実性 |
|---|---|---|
| 走パフォーマンス(調整後) | SMD = 0.18(95%信頼区間 -0.01〜0.36、p = 0.06、I² = 0%) | 中程度 |
| 胃腸症状 | 29.5% 対 2.6%(オッズ比5.9、p = 0.003) | 低い |
| 胃腸関連の脱落 | 8.7% 対 1.6%(オッズ比2.9、p = 0.049) | 中程度 |
| 男性のみ8研究での効果 | SMD = 0.40(95%信頼区間 0.18〜0.63、p < 0.001) | — |
SMD = 0.18という値は、著者ら自身の基準では「ごくわずか(negligible)」の帯に入る。しかもp = 0.06で有意水準に届いていない。I² = 0%は研究間のばらつきが小さいことを示しており、効果が小さいこと自体は安定した所見である。
注目すべきは調整の効果である。胃腸に関連した脱落と出版バイアスを調整したうえでこの値になっている。調整前の値は抄録に示されていないが、調整によって効果が縮んだ構図が読み取れる。
メタ回帰では、男性であること(p = 0.03)と体重が重いこと(p = 0.04)が、より大きな効果と関連していた。実際、男性のみを組み入れた8研究ではSMD = 0.40と小さいながら有意である。
著者らの結論は、男女混合の集団では連続走パフォーマンスへの利益はごくわずかであり、エルゴジェニック効果は男性でより顕著かもしれない、というものである。そのうえで胃腸症状が一般的であり、一部の使用者は補給に耐えられない可能性があると付け加えている。
5. 胃腸症状のリスクをどう見るか
この論文がいちばん実務的なのは、効果とリスクを同じ天秤に載せた点である。
数字を並べると構図がはっきりする。得られるかもしれない効果はSMD 0.18〜0.40の帯、つまり「ごくわずか」から「小」である。それに対して胃腸症状は29.5%、およそ三人に一人に生じる。しかも8.7%は症状のために研究から脱落している。
トライアスロンのように、バイクからランへ移る局面で胃腸への負担が増える種目では、この比率の意味は重い。レース当日に三人に一人の確率で胃腸トラブルを抱える賭けを、小さな効果のために取るかどうか、という判断になる。
著者らの推奨も明確である。競技での使用を検討する前に、練習中に個人の耐性を確立すること。効果の期待値ではなく耐性の確認が先に来ている点が、この推奨の要である。
そして条件の確認もいる。この解析が扱ったのは単回の経口摂取で、テスト時間の中央値は4分だった。数時間に及ぶレースを直接検証したものではない。
6. この研究の限界
まず性別の偏りである。被験者の84%が男性で、女性を含む解析ではサブグループとして切り出せるだけの人数が揃っていない可能性がある。男性で効果が大きいという所見も、女性のデータが少ないことの裏返しかもしれない。
規模も小さい。11研究126名という標本は、サブグループ解析やメタ回帰を行うには限られている。男性のみ8研究のSMD = 0.40も、少数の研究にもとづく値である。
テスト条件の幅も広い。1〜30分という範囲は、生理学的にはかなり異質な努力を含む。中央値4分という値からは、短めの高強度テストが中心だったことがうかがえる。
単回投与に限定されている点も押さえておきたい。数日にわたって分割摂取する方法は、この解析の対象外である。
そして胃腸症状の確実性は低いと判定されている。頻度の推定値そのものにも幅があると考えたほうがよい。
7. よくある疑問
重曹は使う価値があるのか
著者らの結論は慎重である。男女混合の集団では効果はごくわずかで有意でなく(SMD = 0.18、p = 0.06)、一方で胃腸症状は高頻度に生じる。アスリートは潜在的なパフォーマンス上の利点と胃腸症状のリスクを慎重に天秤にかけ、競技での使用を検討する前に練習で個人の耐性を確かめるべきだ、とされている。
男性なら効くのか
男性のみを組み入れた8研究では、効果は小さいながら統計的に有意だった(SMD = 0.40、95%信頼区間 0.18〜0.63、p < 0.001)。メタ回帰でも男性であること(p = 0.03)と体重が重いこと(p = 0.04)がより大きな効果と関連していた。ただしこれはサブグループの所見であり、全体では有意になっていない。
胃腸の不調はどれくらい起きるのか
重曹では29.5%、プラセボでは2.6%に胃腸症状が生じた(オッズ比5.9、p = 0.003、確実性は低い)。胃腸に関連した研究からの脱落も8.7%対1.6%(オッズ比2.9、p = 0.049、確実性は中程度)で重曹に多かった。使用者の一部は耐えられない可能性がある、と著者らは述べている。
8. 出典
- Miller LE, Bhattacharyya R, Katz SJ, Bhattacharyya M, Herbert WG. Negligible benefit of oral single-dose sodium bicarbonate on continuous running performance: systematic review with meta-analysis of randomized, double-blind, placebo-controlled trials. Journal of the International Society of Sports Nutrition, 2025.
- DOI: https://doi.org/10.1080/15502783.2025.2538606