カフェインに重曹やビーツジュースを足しても、持久パフォーマンスへの上乗せは統計的には確認できなかった。16件の盲検・無作為化クロスオーバー試験を統合したメタ分析では、単独摂取も併用摂取もプラセボに対して有意差がなく、単独と併用のあいだにも差はなかった。
用語について。 「エルゴジェニック(ergogenic)」は運動能力を高める作用を指す。この論文が扱う持久パフォーマンスは35秒を超えるものと定義されており、測定されたのは時間・距離・パワーである。「SMD」は標準化平均差(Hedges’ g)で、条件間の差を効果量として表したもの。
1. 何を調べた研究か
パフォーマンス向上を狙うサプリメントを、単独で摂った場合と組み合わせて摂った場合とで、持久パフォーマンスへの効果がどう違うのか。それを既存の無作為化比較試験から統合することが目的である。
対象になった組み合わせは、カフェインと重炭酸ナトリウム(重曹)、そしてカフェインとビーツジュースの二つである。十分な研究数が揃ったのがこの二つだけだった。
2. これまで分かっていたこと
カフェインや重曹といったサプリメントが持久パフォーマンスにエルゴジェニックな効果を持つことは、既に示されてきた。著者らはそれを前提として置いている。
分かっていなかったのは組み合わせである。単独で効くものを足し合わせたときに、効果が上乗せされるのか、それとも打ち消し合うのか。ここについてはほとんど知られていない、というのが著者らの整理だった。
3. どう調べたのか
PRISMA声明とPICOSガイドラインに沿って、PubMed、Scopus、Dimensionsを2024年1月に検索した。年の制限は設けていない。
組み入れたのは、同一の条件下で単独摂取と併用摂取をプラセボと比較し、持久パフォーマンス(時間・距離・パワー)への効果を検証した16件の研究である。いずれも盲検化された無作為化クロスオーバー試験だが、バイアスリスクには一定の懸念があった。
メタ分析が計算できたのはカフェイン+重曹とカフェイン+ビーツジュースの二つの組み合わせで、各比較にはそれぞれ5件の研究が含まれている。統合には変量効果モデルを用い、効果量はHedges’ gにもとづく標準化平均差として算出された。
4. 併用で上乗せは出たのか
出なかった。単独でも併用でも、プラセボに対する有意差は認められていない。
| 比較 | 標準化平均差 | 95%信頼区間 | p値 |
|---|---|---|---|
| カフェイン単独 vs プラセボ(重曹試験群) | 0.30 | -0.12 〜 0.73 | 0.16 |
| 重曹単独 vs プラセボ | 0.31 | -0.18 〜 0.80 | 0.22 |
| カフェイン単独 vs プラセボ(ビーツ試験群) | 0.28 | -0.08 〜 0.63 | 0.13 |
| ビーツジュース単独 vs プラセボ | 0.02 | -0.33 〜 0.38 | 0.90 |
| カフェイン+重曹 vs プラセボ | 0.43 | -0.05 〜 0.91 | 0.08 |
| カフェイン+ビーツ vs プラセボ | 0.33 | -0.03 〜 0.69 | 0.07 |
単独と併用を直接比べても差は出ていない。カフェイン+重曹はカフェイン単独に対してSMD = 0.12(p = 0.57)、重曹単独に対して0.12(p = 0.56)。カフェイン+ビーツはカフェイン単独に対して0.06(p = 0.76)、ビーツ単独に対して0.28(p = 0.13)だった。
サブグループ解析で唯一目を引くのが、テストプロトコルを分けたときの自転車テストである。カフェイン+ビーツとプラセボの比較でSMD = 0.39(95%信頼区間 -0.00〜0.78、p = 0.05)となり、境界的な有意性を示した。
研究間の異質性はI²統計量で0〜22%と低く、ばらつきが結論を濁しているわけではない。効果が検出されなかったのは、ばらつきの大きさではなく効果そのものの小ささと研究数の少なさに由来する、と読むのが自然である。
5. それでも自分で試す価値はあるのか
著者らはあると考えている。ただしその根拠は統計ではなく、判定不能であることそのものにある。
抄録の結論はこう書かれている。少数の小規模研究と異なる方法論的アプローチ(競技種目やテストプロトコルの違いなど)からなる現在の研究状況では、サプリメントの併用効果について信頼できる主張は限定的にしかできない。統計的に有意ではないものの、フォレストプロットに観察された傾向は併用摂取の潜在的な利点を示唆する。したがってアスリートは自分の競技条件下で効果を試すべきである、と。
この立て方は妥当だと思われる。効果量を見ると併用の推定値(0.43と0.33)は単独より大きく、信頼区間の下端がゼロをわずかに割り込んでいるだけである。「効かないと分かった」ではなく「この規模では検出できなかった」が実態に近い。
一方で、確実に言えることもある。カフェインに何かを足せば確実に上乗せされる、という前提には現時点で根拠がない。レース本番でいきなり併用を試す理由はここにはなく、試すなら練習で、自分の条件で、という順序になる。
ビーツジュース単独の結果(SMD = 0.02)についても注意がいる。これは併用研究に組み入れられた条件下での値であって、ビーツジュース単独の効果を主題にした研究を網羅した結果ではない。
6. この研究の限界
著者ら自身が最初に挙げているのは研究の少なさと小ささである。メタ分析が成立したのは二つの組み合わせだけで、各比較に入ったのは5件ずつだった。
方法論の不揃いも指摘されている。競技種目もテストプロトコルも研究ごとに違い、35秒を超えるものが持久パフォーマンスとして一括りにされている。数十秒の全力と数十分のタイムトライアルが同じ枠に入りうる定義である。
バイアスリスクにも懸念が残る。組み入れられた研究はいずれも盲検化された無作為化クロスオーバー試験だったが、バイアスリスクについて一定の懸念があったと記されている。
そして対象集団が見えない。参加者の総数、競技レベル、性別構成はいずれも抄録に記載されていない。カフェインの効き方は個人差が大きい要因として知られるが、その分布をここから確かめることはできない。
7. よくある疑問
カフェインと重曹を一緒に摂る意味はあるのか
このメタ分析では統計的な裏づけが得られていない。カフェイン+重曹はプラセボ比でSMD = 0.43(95%信頼区間 -0.05〜0.91、p = 0.08)、カフェイン単独との比較ではSMD = 0.12(p = 0.57)だった。ただし著者らはフォレストプロットに併用の利点を示唆する傾向が見えるとも述べており、否定されたというより判定できていない状態である。
ビーツジュースは効かないということか
この解析の範囲では、ビーツジュース単独のプラセボ比はSMD = 0.02(95%信頼区間 -0.33〜0.38、p = 0.90)で、効果はほぼゼロだった。ただし組み入れられたのは併用を検討した研究群であり、ビーツジュース単独の効果を主題にした研究を網羅したものではない。
有意でないのに「傾向がある」と言ってよいのか
著者ら自身がその線引きをしている。統計的に有意ではないと明記したうえで、フォレストプロットに観察された傾向が併用の潜在的な利点を示唆する、と書いている。そのうえでアスリートは自分の競技条件下で効果を試すべきだ、というのが結論である。
8. 出典
- Zart S, Fröhlich M. Ergogenic effects of supplement combinations on endurance performance: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Journal of the International Society of Sports Nutrition, 2025.
- DOI: https://doi.org/10.1080/15502783.2025.2524033